皆さんは日本の昔というとどのような光景を思い浮かべるでしょうか?
山へ柴刈りに行くお爺さん、川で洗濯をするお婆さん、柴犬と戯れる子供たち、どんぶらこと流れる大きな桃(?)……色々な光景を思い浮かべると思います。
特に田舎というと山に囲まれた田畑に茅葺き屋根の建物も想像できるのではないでしょうか?
そこで今回はそんな田舎の古き良き光景を見ることができる場所をご紹介します。
田んぼの中に佇む茅葺きの神社
概要
周囲を山々に囲まれた遠野盆地……その中にある広大な田園にポツンと佇む一軒の茅葺きの建物。
この建物は『荒神神社』と呼ばれ権現様を祀っており、地元では『荒神様』と敬われています。
この建物の様式は茅葺造りの中でも『宝形造茅葺』され、正方形の平面で寄棟(傾斜とする屋根面)を造ろうとした場合は、大棟(屋根の最上部に水平にできる屋根面)ができず4枚の屋根が全て三角形になるという特徴があります。
これが六角形であれば「六注」八角形であれば「八注」といわれ、八注の例では法隆寺の夢殿がこの造りになります。
そんな荒神神社は遠野を代表とする光景に指定されており、遠野市が価値ある建造物や風景を指定する『遠野遺産第37号』に選ばれています。
由緒
荒神神社の由緒に関しては、祀られている権現様が他の地域の権現様の片耳を食いちぎった、という話しがあり『荒ぶる神様』ということで荒神様ともよばれています。
耳を食いちぎるとは随分と恐ろしいですね……(・・;)
なんだか耳なし芳一を彷彿とさせます(あちらは亡霊ですが……)
この権現様というのは簡単に述べると獅子舞の獅子のようなもので、よく頭を噛んでもらえば無病息災になるとされる、縁起の良い神様です。
ただし、皆さんがイメージする獅子舞の獅子とは見た目が少し違います。
ちなみに片耳を食いちぎった権現様の話しは遠野物語にも記載がされていますので、その部分を現代語訳でご紹介します。
附馬牛の宿(しゅく)の新山(しんざん)神社の祭礼の日、遠野の八幡様の神楽を奉納したことがあった。その夜八幡の権現様は土地の山本某という家に一宿したが、その家も村の神楽舞の家であったので、奥の床の間に家つきの権現様が安置してあって、八幡の権現をばその脇に並べて休ませた。ところが夜更けになって何かはなはだ烈しく闘うような物音が奥座敷の方に聞こえるので、あかりをつけて起きて行って見ると、家の権現とその八幡とが、上になり下になって咬み合っておられる。そうしてとうとう八幡の権現の方が片耳を食い切られて敗北したということで、今にこの獅子頭には片耳がないという話。維新前後の出来事であったように語り伝えている。
引用元:新版 遠野物語 付・遠野物語拾遺
これを見るとどうやら荒神様の正体は山本某という家の奥の床の間に祀られていた権現様ということになります。
しかし、頭だけになっても喧嘩するのですね……。
しかも、この話の出来事は維新前後……剣客バトル漫画で有名な『るろうに剣心』の時代の頃ですよ。
飛天御剣流をもってしてもはたして権現様は止められるのでしょうか?(^_^;)
ちなみに今回の話しを収録した本はこちらになります。
遠野物語の原文だけでなく、訳された現代文も記載されているので初めてだけど遠野物語に触れてみたいという方にも分かりやすくてオススメです!
アクセス
そんな荒神神社ですが、少々分かりづらい場所にあります。
周囲には田畑しかないため、バス、電車などの公共交通機関は使うことが出来ません。
荒神神社に行く場合は、自家用車やタクシーを使用しましょう。
ルートとしては遠野バイパス上郷道路(国道283号線)を釜石方面へと進み、国道340号線に切り替わるY字路を左に曲がり、川沿いを真っ直ぐ進みます。
しばらく進むと『中沢地区コミュニティ消防センター』がありますので、その先にある大きな道路の交差点を右に曲がって進んでください。
すると、荒神神社が見えてきます。
もし、途中で迷ってしまったら『SMC遠野工場』さんか『鳥居長根公葬地』を目指すようにすると見つけられます。
観光の公式サイトではトイレや駐車場は『なし』とされていますが、駐車場は地元の方の好意なのか、約2台ほど停めることができる砂利のスペースがあります。
ただし、トイレはないので事前にどこかで済ませるようにしましょう。
探勝レポート
それではさっそく探勝していきましょう!
今回は荒神神社の駐車場からスタートなのでいつもよりも早く紹介が終わってしまうかもしれません(^_^;)
駐車場はこのとおり、無料となっていますが荒神神社周辺の農地は個人所有の私有地なので、ゴミはおろか迷惑行為は絶対にやめましょう。
その駐車場のすぐ目の前に……
目的の荒神神社があります。
この時期はちょうど稲刈りも終わったばかりなので、日本の原風景秋バージョンといったところです。
秋晴れの空に景色がよく映えていてとても美しい光景ですね!
なんだか、忙しい現代では忘れていた何か大事なことを思い出しそうです。
茅葺きの小さな建物が哀愁を漂わせて良い雰囲気です。
もう少し近づきたいところですが、この田んぼは私有地です。
入ったら不法侵入になるので遠くから眺めます。
しかし、よく田んぼのど真ん中に祀ろうと思ったものです。
権現様はまたの名を『ゴンゲサマ』とも呼ばれ、里の神の性質もあるようです。
『オシラサマ』といい、遠野には未だ八百万の神々の概念が身近に感じられますね。
おわりに
荒神神社は秋だけでなく、春夏秋冬……全ての季節でそれぞれの顔を見せてくれる場所です。
もし、何かの用事で遠野に来た際に「行くあてがすぐに思いつかないけど遠野らしい場所に行きたい!」と思った場合、ここに来ればまず間違いはありません。
どの季節、どの時間帯でも遠野……いえ、日本の原風景を手軽に見ることが出来ます。
また、坂や段差もないので足腰が不自由な方でも安心してくることができます。
皆さんも手軽に昔懐かしい日本の風景を楽しんでみてはいかがでしょうか?