前回のあらすじ……

数ある念願の内の一つである高千穂峡を訪れ、日本神話の聖地を存分に堪能した私シードル。
天気は晴れ、旅は順調、チキン南蛮は美味しい、とここまでトントン拍子。
九州地方もようやく半分……このまま順調に進むことはできるのでしょうか?
日向の地を去り、豊後の国へ
4/28日、朝8時……2日間の滞在を終え、宮崎の地を離れて大分を目指します。
とはいえ、既に持っていたフリー切符は3回きっちり使い切ってしまったので、新たに切符を入手する必要があります。
九州7県の内、熊本、鹿児島、宮崎と約半分を巡ったので、また3回分のフリー切符を購入しても良さそうですが、宮崎と大分はほぼ特急列車が走るので下手を打つと元を取るどころか、余計な出費になるリスクが……。
そのうえ、大分も2日間滞在する予定なので、フリー切符を購入したとしても中途半端になってしまうのは目に見える……個人的には残り3県である長崎、佐賀、福岡で使い切りたい……ということで今回はフリー切符を購入せず、大分まで特急列車を使い、向かいます。
やはり特急列車というのは良いものですね。
確実に座れるうえにトイレの心配もしなくて良い。なおかつ速い。
人混みに酔うこともなければ、酔いかけたら目を瞑るだけでなんとかなってしまう。
コスパも良いですが、安物買いの銭失いになり心身の健康に悪影響を与えてしまっては元も子もありません。
時は金なり、とも言いますがその『時』には思い出や記憶も含まれるんだなとしみじみ思いました。
そんなことを考えている内に列車はあっという間に大分駅に到着。

やはりどこも県庁所在地の駅は賑わっていますね。
列車に乗っている最中では車内アナウンスで俳優の竹内力さんが大分の魅力を紹介していました。
後ほど調べてみると大分県佐伯市の出身で佐伯駅に到着すると流れるのだとか……いきなりでビックリしました。
このような有名人を起用する辺り、九州の鉄道は商売上手ですね。
ちなみに車内放送が流れたのは日豊本線の特急にちりんです。
渋くてカッコいい嬉しいサプライズも旅の醍醐味。
八幡宮の総本社
本日の宿は別府にとっているのですが、少し行きたいところがあり大分市も別府市も過ぎて辿り着いたのは『宇佐駅』
広大な田園地帯の中にポツンとあるこちらの駅になんの用で来たのかというと……『宇佐神宮』へ行くためです。
しかし、最寄り駅といっても徒歩で約40分ほど掛かり、バスもなかなか来ない場所ではあります。(同じく宇佐神宮へ向かうため降車したご夫婦はタクシーで行っていました)

小雨が降る中、私自身はせっかくなので徒歩を選択。
Googleマップを頼りに宇佐神宮へ向かったのですが、Google先生はコスパ重視傾向なのか表参道ではなく、人気のない裏の参道を案内していました。
目的地に着けばルートも手段も選ばないという気骨を感じますね。
というわけで、本殿からではなく末社の方からお参り……この時、雨風が少し強くなったのでずぶ濡れ覚悟で一旦傘を放して手を合わせます。
ただ、長時間は無理でした。

こちらは流鏑馬を行うための『馬場』……かなり長く作られています。

林の中を通り、ようやく砂利が敷き詰められている参道へ到着。
参道へ出ると雨が少し収まってきました。これはチャンス!

ただ、流石は神宮の格式を持つ神社……境内がとにかく広い!
神宮外苑と称されるだけありますね。
手水舎のある参道なのに社殿が見えないのは初めてかもしれません。

宇佐神宮は広大かつ貴重なものが多いため、とてもじゃないですが全部を紹介することができません。
そこで、私が気になった場所をいくつかピックアップしてご紹介します。
参道を進むと現れる大きな池は『菱形池(ひしがたいけ)』
欽明天皇三十二年に八幡大神が現われたとされる古くから有名な霊池で、名前の由来は宇佐の三山、菱形にかこまれているためとのこと。

参道を突き進むとかなり拓けた場所に出ました。
周囲の木々が深く、畏怖と神秘さを感じます。
ここから本殿のある上宮まで群生する木々は、イチイガシと楠を主体とした自然のままの常緑広葉樹林で、斧を入れずに保護された原生林。
そのため国の天然記念物に指定されています。

深緑映える池の中に舞台のような場所があります。
神楽でも舞うのかと思いましたがこちらは『祓所』
勅使奉幣祭をはじめ大祓式などの祭典で祓の儀を行う所だそうです。
先ほどの拓けた広場は古くより『御輿掛(おこしかけ)』と称し、宮司の輿を倚するところとのこと。

御輿掛からはまるで運命の選択をするかのように二つの鳥居が建っています。
もちろん正式な参拝ルートがありますが……皆さんは大きな左と小さな右、どちらの鳥居を行きますか?

正解としては左にある大きな鳥居です。
こちらの鳥居から本殿のある上宮へ行くことができます。
右は下宮に繋がる鳥居です。
正直、失礼なことをせずどちらのお宮もお参りすれば大丈夫だと思いますが、古くから宇佐神宮には 「下宮参らにゃ片参り」 という言葉があるそうなので、やはり上宮から行くのがセオリーといえるでしょう。
上宮までは長い階段が続いていますが、体の不自由な方、高齢の方、ベビーカーを使用している方でも参拝できるようモノレールがあります。
誰でも参拝できるのは嬉しい限りですね。

宇佐神宮の参拝は通常の神社とは違い『二拝四拍手一礼』と出雲大社と同様の特殊な参拝方法です。
とはいえ、元来ではどの神社もこの四拍手の参拝が正式らしく、二拍手はそれを簡略したものという説があります。
ともかく宇佐神宮では『四拍手』を徹底するようにしましょう。
本殿の建築様式は『八幡造(はちまんづくり)』とよばれている国宝の重要文化財。
奥殿を『内院』・前殿を『外院』と称しています。
内院には御帳台、外院には御椅子が置かれ、いずれも御神座となっており、御帳台は神様の夜のご座所……椅子は昼のご座所と考えられているため、本殿は拝殿も含めて全面撮影禁止となっています。
よって、今回はその入り口にある門のみ撮影……門の造りからも分かる通り、広大かつ美しい社殿なんですよ。いや、本当に……。

本殿のある場所からはその昔『宇佐嶋』とよばれていた『御許山(馬城峠)』があります。
御許山は宇佐神宮発祥の聖地。
摂社である大元神社があり、今でも祭祀が行われています。

宇佐神宮の御祭神は古くから『八幡さま』として親しまれている一之御殿に祀られている八幡大神〔はちまんおおかみ〕こと 誉田別尊〔ほったわけのみこと〕……応神天皇です。
全国約11万ほどの神社のうち、約4万ほどと最も多い八幡宮の総本社であり『日本三大八幡宮』の一角……天皇からは伊勢神宮と並ぶ『二所宗廟』として古来から厚く崇敬されています。
その他に二之御殿で祀られている比売大神(ひめのおおかみ) こと宗像三女神(多岐津姫命〔たぎつひめのみこと〕・市杵島姫命〔いちきしまひめのみこと〕・多紀理姫命〔たぎりひめのみこと〕)。
三之御殿にて祀られている神功皇后 (じんぐうこうごう)も合わせて『三殿一徳』の御威徳と崇められています。

八幡神は仏教と習合している部分が随所にあり、『八幡大菩薩』という言葉は聞いたことがある人もいるかと思います。
それを示すかのように宇佐神宮の境内でもその威容がところどころに見られます。

養老4(720)年、大隈・日向の隼人(はやと)という一族の反乱を鎮圧するため、大和朝廷は八幡神へ祈請し、薦枕(こもまくら)を神験(みしるし)として神輿に奉じ、戦地である大隅・日向に赴きました。この時の輿が日本で初めての神輿(みこし)といわれています。
その後、約3年の末に隼人を平定することができた朝廷ですが、鎮圧された隼人の霊を慰めるため、蜷(にな)や貝を海に放つ『放生会』という祭典が行われ、この行事は現在の宇佐神宮における重要な祭礼として続いています。

この隼人との戦いで殺生の罪を悔いた八幡神が、仏教に救いを求めたことから宇佐神宮では神と仏が習合した神仏習合という先進的な思想が起こったというわけです。

神様でも悔んだり、仏様に救いを求めるということを考えるとどこか人間味が感じられ、親しみやすくなりますね。
この部分が日本と海外における大きな違いといえるかもしれません。

宇佐神宮にはかつて『宇佐神宮弥勒寺』という神宮寺があり、現在でも境内にはその跡が残されています。
宇佐八幡神の化身ともいわれる『仁聞菩薩』が約1300年前に開山したといわれる『六郷満山』……神仏習合の発祥ともいわれており、かつてはここにあった弥勒寺から大分県国東半島の山々へ多くの人が厳しい修行の場を求め、寺や岩屋を開き、それが後に半島に点在する天台宗寺院郡の総称となったと伝えられています。
現在はお寺の面影はありませんが、古から変わらぬ空気を感じることはできます。

参道へ出て『菱形池』を眺めるように遊歩道を歩きます。
少し湿った空気が程よい涼を与え、森と池に囲まれているためか静かな雰囲気を作り出していました。


水面は一切の波紋がない水鏡……浮島へと続く桟橋が苔むしており、人が簡単に立ち入ってはいけない領域を無言で示してくれています。
池の小島には『水分(みまくり)神社』が鎮座されており、五柱の水神様を祀っています。


そんな池の周りの遊歩道を歩いていると『御霊水』と書かれている神社に辿り着きました。
ここは八幡大神が現れたとされている場所で『御鍛冶場(おかじば)』『下井の霊水』とも称され、三つの霊泉が湧きだしています。

奥には八角の『影向石(ようごうぜき)』があり大神が神馬に召され、天翔けられたと伝えられる馬蹄の跡があります。
社宝となっている『神息の刀』は奈良朝の末ごろ、社僧の神息(しんそく)が御霊水の前に三個の井戸を掘り、この水で八幡大神の神威を頂いて刀を鍛えたとも伝わっており、境内でも力が強い場所として知られているそうです。
柄杓もあり、蓋を開けることで誰でも霊水を汲むことができますが、落ち葉などがあるため飲料としては推奨されていません。
家の周りに撒いたりするくらいが良いのかもしれませんね。

御守は撮影禁止の本殿でも頂くことができますが、御朱印は右手にある授与所で頂くことができます。
御朱印を頂く際の基本ルールは参拝後とされていますが、宇佐神宮では記帳は少し時間が掛かるため、参拝前に預けて帰る際に受け取るのが推奨されていました。
私はそんなことも知らずに参拝後に授与。
拝殿や本殿よりも授与所が先にある場合は確認してから参拝した方が時間効率は良さそうです。

帰りは裏口ではなく、正面から堂々と帰ることにします。普通は逆なんですけどね……。
やはり規模の大きい神社のためか鳥居も立派です!
一番上にある笠木は沿って尖っているようでカッコよさもあります。
ただ……なんだか普段神社で見る鳥居と比較するとどこか違和感があります。
よくよく見ると笠木の下に黒い輪のようなものがあり、これは通常の鳥居にはない装飾ですね。
さらには神社の名前が記載されている額もない……。
これは『宇佐鳥居』とよばれていて、宇佐神宮ならではのものとのこと。
やはりオリジナルがあるのは一つの強みですね。

神橋を渡り、神域から俗世へと戻ります。
少しの非日常的な空間を味わうことができた、実にいい参拝でした。

宇佐神宮で頂いた御朱印(300円)……細い字体ながらもしっかりと書かれている素晴らしいものです。

こちらはかつてあった弥勒寺の御朱印(300円)……同じ授与所で頂くことができます。
一応、お寺なので寺用御朱印帳に記帳して頂きました。
対応してくださり、ありがとうございます。

宇佐神宮を後にし、再び長い道のりをかけて宇佐駅を目指します。
ただ、行きと違い雨は降っていなかったため、のんびりと景色を楽しみながらの散策です。
この山に囲まれた田園風景……岩手を思い出すな~。

開発工事中の道路や特徴的な山……こういったのどかな風景を堪能できるのも公共交通機関を使った旅ならではのもの。
不便なところもありますが、その不便さを楽しむのも一興。
毎日毎回は流石に遠慮しますけどね。

宇佐駅へ到着し、しばし駅からの景色を眺めます。
画像では少し見えにくいですが左側の低い山の上に『USA』という建造物が……一瞬「なんでこんなところにUSJ?」と思いましたが、一文字違い。
ここは大阪ではなく大分。
ただ、どちらも一文字違いはうまいなぁ…と思いました。
そんな平時ではどうでもいいことを考えている間に列車が到着。
乗り込んで、別府へ向かいます。

出湯の街で心身を癒す
夕方になる前に別府駅へ到着。
今回は別府駅西口にある『ホテルフジヨシ』さんにて2泊3日に滞在です。

客室からは『別府タワー』と別府の海、そして駅前の街並みが見える好立地。
駅から徒歩1分圏内で料金もじゃらんの素泊まりプランで5000円ちょっと……それだけでも十分ですが、ここはビジネスホテルと謳っているものの全室に温泉を引いており、さらには最上階には湯守の方が管理している展望半露天風呂も付いているという、破格のホテル。
さらには近隣のホテルにある温泉にも入ることができるというのですから、もう色々と啞然です。
さすがは別府……温泉のサービスとおもてなしの質が今までと断然違う!
そのうえ、別府駅自体も隣には地元の方も利用するスーパーがあったりと素泊まり者にとっては天国と呼べる環境!
もうなんというか……色々な地域を巡っている最中ですが、観光地は別府の立地を参考にすれば良いのではなかろうか?

展望温泉に入り、地元スーパーの総菜に舌鼓を打った私はローカルニュースを見ながら、この日は21時に就寝。
翌日は別府といえば『あの場所』……への訪問です。
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