岩手にある名所の数々………その中でも『ドラゴンブルー』と異名を持つ代表的な場所が『龍泉洞』です。
その洞窟から湧き出る清水は岩泉の町を潤し、数多くの派生商品である名物を生み出しているほど………岩手の観光経済の源泉にもなっています。
とはいえ、地底洞窟と聞くと初見の方は「入るだけで大変そう…」と思ってしまいます。
実際のところ、私自身もそうでした。
今回は遠方からはるばると訪れる人が多い『龍泉洞』についての情報をご紹介します。
日本三大に数えられる岩泉の地底湖
概要
『龍泉洞』は岩泉町にある鍾乳洞で別名『岩泉湧窟(いわいずみわっくつ)』『龍泉窟(りゅうせんくつ)』とも呼ばれています。
洞窟の総延長は約1,200m。高低差は約249mで山口県の『秋芳洞』高知県の『龍河洞』と共に『日本三大鍾乳洞』の一角。
実際の長さは2.5㎞以上または5㎞以上ともいわれていますが、昭和43年(1968年)に洞窟探検家の方が潜水で事故を起こして以来調査されておらず、本当のところは未定。
しかし水深98mの第3地底湖、120m以上ある第4地底湖(未公開)等、全部で7つの地底湖を持っていることが明らかになっています。
また昭和42年(1967年)に龍泉洞の向かいにて観光整備工事中に新たな洞窟『龍泉新洞』が発見されるなど、新しい発見も相次いであるほか、洞窟内に棲む5種のコウモリ類は、昭和13年(1938年)に、洞窟と共に『岩泉湧窟及びコウモリ』名義で国の天然記念物に指定されているなど、話題に事欠くことはありません。
また、2014年には『恋人の聖地』として認定されています。
営業期間と時間についてですが、基本は年中無休で………
・10~4月は8:30~17:00
・5~9月は8:30~18:00
高校生以上は1100円。小、中学生は550円となっています。
なお、年中無休とはなっていますが増水などで閉洞する場合もあるので、雨の多い梅雨や台風の時期は注意が必要です。
伝説
そんな『龍泉洞』ですが、神秘的な場所ということもあり、このような伝説が残されています。
龍泉洞の起源伝説
ずーっと、昔のこと、あるとき、いきなり宇霊羅山の麓の辺りから、シュー、シュー、シュー、と変な音が聞こえだしました。
さて、これは何の音かと、みんなが大変驚きました。
その音はだんだん大きくなるばかりで、一向に止みそうにありません。
昼も夜も、シュー、シュー、シュー、と鳴り続けました。
岩泉の人たちは、だんだん心配になってきて、「宇霊羅山が噴火するんじゃないか」と言う人もいれば、「この世が、壊れるんじゃないか」と言う人もいて、仕事も手につきません。みんなおろおろし始め、物識り、山伏、巫女さんにご祈祷してもらおうと駆けだし、右往左往の大騒ぎになりました。
恐ろしい音は、なんと七日七晩も続いたそうです。
そうして最後に、シューッ、シューッ、シューウウウウッと特別に大きな音と一緒に、岩山を割って、大きな龍蛇がとび抜けたのです。
龍蛇はたちまち天にかけ昇って見えなくなってしまいました。
すると、龍蛇のとび抜けたあとから、美しい泉がこんこんと湧きだしました。泉は冷たい水で、飲んでみると、とってもおいしい。みんなが大変喜びました。
こうして龍泉洞ができたのです。
龍泉洞は龍蛇のお恵みで、今も全国の人々に喜ばれる宝の水を湧きだしてくれています。
引用元:<河童を見た人びと(高橋貞子著)>
アクセス
『龍泉洞』は岩泉町から少し外れた場所にあります。
盛岡からは薮川地区から『岩洞湖』経由で岩泉方面………沿岸は宮古、久慈方面ともに三陸道(国道45号線)から『岩泉龍泉洞IC』を下りて、小本川沿いの国道455号線を岩泉方面へ進み、『沢廻公民館』の先にある交差点を右(久慈岩泉線)へ進んだ先にあります。
また、盛岡や宮古からは『龍泉洞』までバスが出ているのでそちらを利用するのも手です。
駐車場は広大な専用のものがあります。
探勝レポート
龍泉洞周辺
それではさっそく探勝といきましょう!
今回は龍泉洞の駐車場からのスタートです。

こちらは龍泉洞の第二駐車場。
駐車場は全部で三つあり、そこに『新洞科学館前駐車場』も含めて計四つあります。
いずれも料金は無料です。
パッと見て第一駐車場が一番近いように感じますが、龍泉洞から近いのは第二駐車場。
それぞれの駐車場から龍泉洞まで近い順としては………
第二駐車場(70m)→新洞科学館前駐車場(100m)→第一駐車場(400m)→第三駐車場(500m)
となっています。

駐車場のそばを流れるのは『清水川』……これだけ見ると綺麗な小川ですが、龍泉洞を過ぎると洞内の水と交わり、得も言われぬ美しさとなります。
詳しくは洞窟探勝後に見ていきましょう。

駐車場を進んで行くと分かれ道となる地下通路があります。
真っ直ぐ行くと龍泉洞、左に曲がれば科学館となります。


地下通路を真っ直ぐ進み『龍泉洞橋』へと到着。
龍のモニュメントが勇ましくてカッコいいですね。
男子学生の修学旅行先としても恐らく人気でしょう。
男はいつだって龍や虎が好きなものです。

橋の中腹には『恋人の聖地』に指定されたモニュメントが設置されています。
二匹の龍が向かい合ってハート形を作っています。
勇ましさから可愛らしさへ………見方と工夫次第でどんなものも変わることが出来るんですね。

橋からは趣ある建物と水車小屋………そして洞窟から出てくる水が合流するところを眺めることができます。

この川には『三角岩』という三角形の形の岩があり、普段はその先端が川から出ているのですが、増水時になると沈んでしまうそうで、それが洞窟内の通路が冠水する目安になっており、沈んでしまったら閉洞になるそうです。
この日は幸いにも出ていたので大丈夫そうです。

橋を渡りきると柄杓の下げられた水飲み場があります。
ここは龍泉洞の水が飲める唯一の場所です。
通常、洞窟の水というのは見た目が綺麗でも衛生面の関係で飲むことができない場合がほとんどですが、ここでは水質検査もちゃんとしており、飲むことができます。
岩泉町の家庭では当たり前のように飲まれ、天然水としても販売されている龍泉洞の水を無料で味わうことができる……贅沢ですね。
水温は9℃で酸性度を表すPHは7.5………とっても美味しい水でした。

そんな天然水飲み場の近くにはなんだか存在感を放つ石があります。
この石は『五郎兵衛石』とよばれ、方角と時刻を表しているそう。
名前の由来としては明治時代に岩泉に住んでいた三田地五郎兵衛という人が建立したためで、この人は平泉の藤原御館五郎佼衡という奥州藤原氏に関係する人の末裔であり、龍泉洞の上にある五郎兵衛穴の発見者でもあります。
早くから龍泉洞の繁栄を予言したり、周囲にたくさんの石塔を残したりと発展に尽力した人物とのことです。
やはり偉人の血筋はどなたも先見の明があるみたいですね。

さっそく入洞といきたいところですが、入る前に諸々の準備が必要です。
入洞料金を払った後にまずは腹ごしらえなどを済ませましょう。
食事やお土産、入洞券は龍泉洞前にあるこちらのお食事処で購入することができます。
新洞科学館の入館券もこちらでの購入となっています。
龍泉洞は長いですが、内部にはトイレなどが無いので入る前にこちらで済ませましょう。

一階は物産と食堂があり、二階は休憩所になっています。誰でも利用できるのは嬉しいですね。
しっかり体力も整えましょう。

奥の方には猟で仕留めたであろう熊の毛皮もあります。
なかなか大きいし、滅多に見られませんね。

トイレを済ませたら次は食事ですね。
お食事処の裏手にはアユやイワナの塩焼きが販売されています。
天然水で育てられた焼きたてのイワナを注文し、実食!
身はほくほくでとっても美味しいです。
龍泉洞に来た際はぜひとも味わってみてください。





周辺には様々な龍の置物や実際に使える古井戸、植えられたわさびやイワナ、ニジマスの泳ぐため池があります。
ふんだんに水と龍を利用していますね。
ちなみに井戸からは水は出ますが、飲むことはできないのでご注意ください。
龍泉洞入洞
それでは寄り道はこの辺りにして、いよいよ龍泉洞の中へ入ってみましょう。

洞窟は夏でも冬でも洞内の気温は一定に保たれています。
そのため、夏に涼しむのも良いですが意外と冬に来るのもアリな観光スポットです。

入り口の小川からすでに新鮮で膨大な量の水が流れています。
周囲の苔むし具合からもその量がよく分かります。

入ってすぐにあるのが『長命の淵』……既にドラゴンブルーでとっても綺麗です。
浸かることで長生きできそうです。

鍾乳石の壁がそびえる通路……灯りがあって綺麗に見えますが、実際は結構暗めです。
ライトの反射の影響なのか、カメラのファインダー越しだと逆にはっきりと見ることができます。

こうして画像で見ると流れが無いように見えますが、実際はとっても流れが早く深いです。
もし、何かを落としてしまったらまず取ることはできないと思った方が良いでしょう。
落とし物注意ですよ。

歩いていた際はほとんど真っ暗で何もないような感じでしたが、カメラで撮ると幻想的な光景が浮かび上がります。
ものの見方が変わるような体験です。
先入観や偏見は視野を狭くする、ということを学んだような気がします。

こちらは『玉響の滝』……うっすらと水が青みがかっており、幻想的です。
ファンタジーもののダンジョンとかでありそうな光景………水だけでなくインスピレーションも湧き上がりますね。

無論、流れが早いところもあれば静止しているところもあります。
昔はこの洞内をカンテラというランタンとサッパ船という小舟で進んでいたそう。
今は照明技術が発達して綺麗に見えますが、ちょっと油断すれば底なしの水というのは怖いですね。

このアングルも遠くから見れば、どっちが上か下か分からなくなりそうです。

照明で照らされた鍾乳石はとても美しいですが、カンテラの灯りで照らされた洞窟内では確かに龍が棲んでいるといわれてもおかしくないですね。
この一直線の道は『百間廊下』とよばれており、龍が通ってこの細長い道ができたという逸話もあります。

こちらは『亀岩』………確かに巨大なウミガメのように見えますね。

照明の色が変われば、洞窟内はまるでイルミネーションそのものです。
ここなら、昼夜関係なく見ることができますね。

洞内にはお地蔵様も鎮座しています。
無事に洞窟から出られるように念入りに手を合わせ、お参りさせていただきました。

こちらはまるで、流れているかのような鍾乳石『音無しの滝』です。
長い年月をかけて作られる自然の神秘……言葉を失ってしまいますね。


こちらは『月宮殿』といわれるスポット。
月の世界の宮殿に来たかのような、神秘的かつ幻想的な場所です。
こちらでは帰る際の方向から眺めると、岩の重なりで空間がハートに見える場所があるそうですが………私は見つけられませんでした。
カップルの方々は探してみてください。

月の宮殿を抜けるとそこには龍泉洞の目玉スポットともいえる『第一地底湖』が姿を現しました!
この日は前日に雨が降ったため、若干濁ってはいますが、それでもとっても綺麗で美しい!
水深は約35メートル……灯りもない時代では底知れなかったでしょうね。
私だったら初見で潜ろうとは思えないです。
先人方の活躍に感謝です。

こちらは少し先にある『第二地底湖』………こちらは水滴の量が多くて波紋のない状態は撮れませんでした。
でも、これはこれで良いものです。
こちらの水深は約38m。この水は北に広がる森林地帯から集まったものだとされています。
途方もない旅の末に辿り着いたということですね。

こちらは『第三地底湖』……観光コースの最終地点で私達が見られる地底湖はここまでです。
水深は、最も深い約98m。近くには救命用の浮き輪がありますが、落ちたらまず助からないでしょう。
撮影する私も正直ビクビクしています。
余談ですが、龍泉洞の地底湖が一番綺麗に見えるのは不純物の少ない冬の時期ですので、より清らかな地底湖が見たい方は冬季を選んで行きましょう!

『第三地底湖』まで行くとこのような階段が現れます。
高所が苦手な方や足腰に不安のある方はここで戻ることも可能です。
私の場合は………せっかくですから行って見ましょう!

同じような景色が続く山の中だと方向感覚が狂いがちですが、さらに上下左右が同じような岩壁の場合だと空間感覚も狂ってしまいますね。
閉所が苦手な方も些か注意が必要です。

階段を上がっていると途中で小屋のような場所を発見しました。
どうやら、こちらは岩泉町のやまぶどうを使用したワイン(『宇霊羅ワイン』)が貯蔵されているようです。
龍泉洞は洞内の温度が一年中一定していることからワインを貯蔵するのに適しているとのこと。
このようなワインの貯蔵に洞窟が使われているのは珍しいことではなく、盛岡市の黒森地区や野田村の『マリンローズパーク』などでは使われなくなった鉱脈跡を利用して、ワインを貯蔵しています。
洞窟内で熟成されたワイン………実に美味しそうですね!

しかし、鍾乳石の壁というのは普通の岩肌と比べてやはり綺麗ですね。
昔は山や岩石を男性や女性に見立て、信仰することがありましたが、なんとなく頷けます。

とはいえ、階段はまだ続き……だんだんと急になっています。
少し振り返ってみるのが怖いのでこのまま前進。

ようやく観光コースの最高峰『三原峠』に到着。
ここは地底湖の水面から35mの高さにあります。
必死こいて上がってきましたが、思ったよりも高かったですね。

そうして、峠からは『第一地底湖』を真上から眺めることができます。
青い水面がとっても綺麗ですが……少々見えづらいので近づいてみましょう。

私のカメラの腕ではここまでが精いっぱい。
これ以上、近づくとぼやけてしまいます。
この地点も龍泉洞の目玉の一つでよくポスターなんかで使用されていますね。
わずかに見える地底湖の輝きがまるで龍の眼のようにも見えます。

地底湖はこの踊り場から見ることができますが、なにぶん暗がりが強いため足元などにはご注意ください。

さて、それでは下っていきましょう。
こうして見るとお洒落な感じがしますが、なかなかな高さで階段も濡れていてよく滑ります。
転ばないように気を付けていきましょう。

階段を下りていくと鍾乳洞を守る獅子と遭遇。
確かに立派な狛犬に見えます。
ちなみに『月宮殿』のハートはこの『守り獅子』付近に立って、『亀岩』の方向を見てみると見えやすいそうですよ。

壁には鍾乳石の女神様『洞穴ビーナス』もいます。
鍾乳洞では必ず一柱はいますね。

『長命の淵』もあれば『長命の泉』もあります。
こちらは一口飲めば3年寿命が延びるそうです。
3年延びると聞くと昔話で転がると寿命が3年になるお話があったような気がします。
3という数字は昔からのデフォルトなのかもしれません。

こちらは『白亜の議事堂』…洞窟内で会議をしていてもおかしくないような空間ですね。
なんだか宮沢賢治の世界観に出てきてもおかしくはなさそうです。
議員の皆さんも国会などではなく、洞窟で会議をすれば少しは気分転換になるかもしれませんよ?

こちらは『蝙蝠穴』……コウモリ達の住処で現在でも実際にコウモリが生息しています。
私が行った時にはいませんでしたが………夕方頃に行けば、飛び出すコウモリと遭遇できるかもしれません。
清水川渓流

龍泉洞の探勝を終え、洞窟を出てきました。
いやぁ~、とても素晴らしかったですね!
本来なら、ここで終わりなのですが………少し私の寄り道にお付き合いください。
龍泉洞から出てきた水の行方……途中まで追いかけてみようと思います。

小川のような清水川と合流すると川はたちまち勢いある渓流へと変化します。
紅葉の時期などは特に風情がありそうですね!

あまりの水量の多さに道には川が出てきます。
なんだか和風ファンタジーのような光景で少しワクワクしますね。

川沿いには赤い柵の遊歩道があり、和風感がさらに高まります。
なんというか神域へ行く道中のような雰囲気です。

落差がある場所にはこれでもかというほどの水量が流れ込んでいます。
画像では分かりづらいですが、無数の大きいイワナが泳いで釣り人の欲を刺激します。
あぁ……竿を出したい。

この風景はザ・日本の渓流といった感じですね。
紅葉も良いですが、夏でも映えそうな景色です。

けれども、この川が不思議な部分は水も青いということ……。
硫黄の成分が混じっている温泉地の川や深さによって色が変わる海なら分かりますが………一体なぜ?
調べてみると不純物の少ない透明な水は、光の波長が長い他の色を吸収してしまい、波長が短い青い光を反射するので、青く見えるとのこと。
代表的なものでいえば四国にある『仁淀川』の仁淀ブルーや北アルプスのような深い渓谷の水と同じ………つまりとても綺麗という証明なんですね。
この自然、大事にしなければ………。

綺麗な清水を眺めながらの森林浴は本当に最高ですね!
滝壺に行くよりもマイナスイオンはとても豊富です。

遊歩道は途中で道路に出るようになっています。
そこから『龍泉新洞科学館』へも行くことができますが、そちらは別の記事で紹介したいと思います。
それにしても身も心も清らかなになれる素晴らしい場所でした!
おわりに
岩手で河童と聞くと遠野のイメージが強いようですが、実は目撃情報が多いのは岩泉町です。
とはいえ、これだけの綺麗な水と豊富で深い水量ならばいてもおかしくはないでしょう。
もしかしたら、今でも龍泉洞の地底湖に住み着いているのかもしれません。
神秘と幻想に彩られ、見ているだけでも力をもらえる龍泉洞………皆さんもその水の恩恵を受けに訪れてみてはいかがでしょうか?