8/2日……この日は前日から北上市で行われていた『みちのく芸能まつり』を観に電車を使って北上駅へ。
前日は備忘録109譚に記載した通り『さんさ踊り』に行ってました。

天気はやや曇りですが、暑さは晴れの時とは変わらず……最近の気温の高さは異常ですね。

今回の『みちのく芸能まつり』のメイン会場は1995年以来30年ぶりに北上市役所前通りに変更されたとのことで、とりあえず市役所目指して道を歩きます。
昨日は県庁前で今日は市役所……行政機関と縁があります。
そんなことを思いながら歩いていると交通規制の掛かっている道路に到着。
祭りは既に始まっていました。
行われていたのは神楽『権現舞』大群舞。

市役所前通りは『おまつり広場』というメイン会場に変わり、民俗芸能を披露する舞台に……会場は全部で10に分かれており、それぞれの場で各種の団体が芸能を披露します。

権現舞の後は御利益を得るために噛まれるべく長蛇の列が……この手の行列は昔から人が絶えませんね。

続いて行われたのは北上市各地区で行われている芸能の披露。
私が観た会場では二子地区の鬼剣舞修行生・少年団が一足早い剣舞を行っていました。

小さいながらもやはり迫力がありますね。
北上市は民俗芸能の宝庫と言われ、伝承活動をしている民俗芸能団体数は100を越すほど……その中で最も人気のあるのがこの『鬼剣舞』です。
いかめしい鬼(仏の化身)の面をつけた踊り手が勇壮に舞う……北上地方に1300年前より伝わっている伝統芸能です。

北上市内の伝統芸能が終わると続いて行われたのが県内外の伝統公演。
私が観たのは一戸町に伝わる『根反鹿踊り』
太鼓の叩き手と踊り手の力強さは圧巻するほどの勢いがありました。

県内はもちろんのこと、県外では佐渡や札幌、八戸や仙台からも芸能団体が来ています。
まさに夢の競演といった感じですね。

少し場所を変えて今度は第1会場へ。
続いて行われたのは北上市内各所で伝えられている鬼剣舞の公演……先ほど見た子供のものとは違い、こちらは大人が踊ります。
やはり動きのキレは違いますが、子供達も負けてはいなかったなぁと感じました。
将来に期待ですね。

鬼剣舞の由来は文献資料のほか口頭伝承されており『大宝年間に役の行者が念仏を広めるために踊った』とか『羽黒山の法師が悪魔退散、衆生済度の念仏踊りとして広めた』とか『康平の頃前九年の役の主役である安倍の一族の一人、黒沢尻五郎正任がこの踊りを好み、出陣や凱旋のときに躍らせた』など諸説あります。
どのルーツも深堀していけば面白そうですね。

鬼剣舞の後は鹿踊(ししおどり)が一斉に舞う鹿踊大群舞。
一際存在感を放つ鹿たちが縦横無尽に道路を舞います。

鹿踊の由来はそれぞれ踊り組によって違うそうですが『狩人が誤って殺した弔いのため』とか『鹿が野で遊んでいる様子を踊りにした』などがあります。
農耕儀礼、豊年予祝、先祖供養のために踊られ、山伏修験道が奉じた権現様の威力のお助けを加えて出来たものではないかとも伝えれており、民俗学的観点からも注目されています。

岩手県内に伝わる鹿踊は県南地方に伝わる『鹿』の字をあてた太鼓系の『鹿踊』と、遠野・県北地方に伝わる幕踊系の『獅子』(一部には「鹿子」)の字をあてた『獅子踊』があります。
太鼓系の鹿踊は宮城県北から岩手県南の旧伊達藩を中心に数多く伝承されており、囃子がなく各踊り手が歌を歌い、太鼓を打ち鳴らしながら2~3mのササラ竹を背負い、獅子頭をいただいて踊るもの。
鬼剣舞の『勇壮』『華麗』に対し『重厚』『律動』の芸能として扱われているそうです。

鹿踊が終わった後は市内芸能演舞。
私のいる会場では『門岡念仏剣舞』が行われました。

鬼剣舞は元々こちらのような『念仏剣舞』だったそうですが、やがて鬼の面を被って勇猛に舞うことから鬼剣舞になったのだとか。
弔いから攻めに変化した、ということなのでしょう。
世の中、理不尽なことばかり多いですが哀しみに暮れるより立ち向かっていけ! というメッセージが込められているのかもしれません。

そうしていよいよ祭りはフィナーレ『鬼剣舞大群舞』へ移ります。
みちのく芸能まつりを象徴とする最後の公演です。

鬼剣舞大群舞では篝火が灯され、その中で200人もの踊り手が北上の夜を舞う幻想的な伝統芸能。
訪れたら必見の価値ありです。

笛の音が鳴り響く中、踊り手たちは一斉に待機。
自然と周りの雑音も小さくなってきます。

剣舞開始の合図と共に踊り手たちが一様に動き出します。
個々で流派は違えど、なんだかシンクロしているように感じるのは源流が同じだからなのでしょうか?



篝火の近くかと思いきや、意外と離れた場所で踊っています。
まぁ、火の勢いが強いため当然といえるでしょう。
宵闇に人が舞い、火の粉が舞い、虫も舞う……さんさ踊り同様、こちらも人と自然が調和を起こしていますね。

会場の真ん中に移動してみると梵字の書かれた灯篭『梵灯』がありました。
この梵灯の火は午前中に北上川の向こう岸……展勝地の近くにある国見山『如意輪寺』の護摩法要で分火したものです。
そして、篝火はその神聖な火で点けられたもの……そう考えると一気に神秘さが増してきます。


一斉に道路をめいっぱい使って行われる鬼剣舞は華麗かつ凄まじい迫力を持っています。
こちらはさんさ踊りとは違ってまた良いですね。
実をいうと、みちのく芸能まつりを見たのはこの日が初めて……花巻に住んでいたこともありましたが、ほとんどさんさ踊りの方に行っていたんですよ。
この時期になるとさんさか芸能まつりか分かれるのが常で、花巻や北上といった県南の人達は芸能まつり……紫波、矢巾、盛岡の人はさんさ踊りといった感じで、花巻住みの時の勤務先ではさんさ踊りに行ったことがない、という人がほとんどで軽いカルチャーショックを受けたのは良い思い出です。



まぁ、しかしこの勢いある祭りを見ると納得します。
そりゃあ、同時期で近くに開催されていればこっちに行くでしょう。
なぜ、同時期なのか……時期をずらせば岩手の夏は観光客で埋め尽くされるのに。
とはいえ、開催時期は昔からのもの……変えることはできないのです。



帰りの電車もあるので、大群舞を眺めながら祭り会場を後にします。
いやぁ~、今年は色々な祭りに多く巡り会うことができました。

北上駅構内にも鬼剣舞が……最後まで剣舞に埋め尽くされた北上の夜でした。

盛岡行きの終電が21時56分と早いことに驚き、少し焦って乗り込んだのもいずれ良い思い出となるでしょう。
もし、電車でみちのく芸能まつりを訪れる際はご注意を。