史跡

北上川の源泉が湧く古刹【岩手町‖北上山 正覚院(弓弭の泉)】

 盛岡市、花巻市、北上市、奥州市、一関市などを通り、宮城県の登米市まで流れる岩手を代表する河川『北上川』……広大な大きさと長さを誇るこの川も一滴の小さな水から生まれています。

 そんな北上川の始まり……どんなものか気になる方もいるのではないでしょうか?

 今回は大河が生まれる岩手町のお寺をご紹介します。

坂上田村麻呂ゆかりの古刹

概要

 岩手町『国道4号線』の外れにある『北上山 正覚寺』……正式名称は『北上山新通法寺正覚院』通称は『御堂観音』と呼ばれるこのお寺は坂上田村麻呂が立木十一面観音を自ら刻んで安置して草創したといわれ、また八幡太郎義家が前九年の役の際にこの地に仏堂を建立し観音を安置したと伝えられています。

 平安時代に蝦夷地の開拓に際して、天台宗の僧侶などが下って開いたものと思われ、平安時代には既に堂が建てられ、堂守が住んでいたとされていますが、宝暦8(1758)年と昭和43(1968)年にたびたび火災や落雷によって焼失されています。

 現在あるのは昭和45(1970)年に再建されたものとされ、建物は比較的近年に建てられたものです。

 境内には『弓弭(ゆはず)の泉』と呼ばれる北上川の源泉となる清水が湧きだし、古くから人々に知られそこに仏堂と観音像が安置されました。

 泉の伝承としては……

 天喜5(1057)年、前九年の役の頃……源頼義、源義家父子がこの地を平定するために軍勢を進めていたところ、飲料水がなく、兵馬が苦しみ始めた。そこで天に拝して観音菩薩に念じながら、義家が持参の弓の『弓弭』で岩を突いたところ、清水が湧き出て、兵馬が喉を潤すことができたと伝えられている。その後の康平5(1062)年、義家は無事に敵将安倍貞任を討つことができ、その帰りにここに堂を建立して自分の頭髪の中に入れて戦ったという小さな観音像をここに安置したといわれている。

と伝わっております。

 これが『御堂観音』の由来とされ、その際寄進したという陣中釜は今もお寺にあり、本堂の千手観音像は南部氏がこの地を領した際に守り本尊として護持したとされています。

 ちなみに『正覚院』『奥州観音霊場の第32番札所』でもあります。

御本尊・御利益

 祀られている御本尊様については以下の表に簡単にまとめてみました。

御本尊御利益
千手観音〔せんじゅかんのん〕救済の仏
対象:災難除け、延命、病気治癒

 千手観音は正式名を『千手千眼観自在菩薩(せんじゅせんげんかんじざいぼさつ)』といい、その千本の手で「生きとし生けるもの全てを漏らすことなく救済したい」という慈悲を持つ仏です。

 そのため、御利益としては災難除けや延命、病気の治癒に効果を発揮します。

 水と延命、病気治癒に関しては繋がりが多く……他の場所でもその傾向はあるため、やはり健康に関する御利益が強そうです。

 坂上田村麻呂や八幡太郎義家との関連も含めれば戦勝祈願にも力がありそうです。

アクセス

 『正覚院』は岩手町の『国道4号線』の外れにあります。

 目の前には『北上川源流公園』である『いわてまち 川の駅』があり、『国道4号線』を北上していくと看板もあるため、到着しやすいでしょう。

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 お寺自体には駐車場がありませんが『川の駅』に広大な駐車場があるため、そこに車を停めることで徒歩で行くことができます。

 ただし、夏はアブやハチが多いため、虫よけ対策は必須です。

探勝レポート

 それではさっそく探勝といきましょう!

 今回は『川の駅』駐車場に車を停め、山門からのスタートです。

入り口

 こちらが『正覚院』の入り口です。

 すぐ目の前に『川の駅』である『北上川源流公園』があるので、休憩するのにちょうどいいです。

入り口2

 入り口はとても立派な造りとなっています。

 由緒正しき古刹……その雰囲気がビンビンと伝わってきます。

いわれ

 近くには北上川源泉地について書かれた謂れがあります。

 内容はほぼ概要通りです。

 入り口をくぐると笠を被った立派な狛犬がお出迎え……目も飛び出し気味。

 大きさは神社に鎮座しているものに比べるとやや大きいですね。

 近くには『観世音』の石碑もありました。

鐘

 参道中腹の茂みの中には鐘楼と大きな鐘を発見。

 雪深い冬などは行くだけでも大変そうですね……それもまた修行でしょうが。

中間の山門

 入り口を抜けて少しした先にはこれまたとても立派な山門がありました。

 上は部屋のようになっているのでしょうか?

 それにしても木々が密集しているなか、よくぞ建てたものだと思います。

山門内部

 中は立派な骨組みが見えます。

 上部は空洞になっているように見えませんでしたが、はしごや階段らしきものも見当たらず……どうやって上るのでしょうか?

 もしかしたら必要時にはしごのようなものが掛けられるかもしれません。

祈願所

 山門内部には祈願所が隣接していました。

 ガラス戸のある受付には色々な御守がありましたが、この日は誰もおらず……棚の右側にある箱の中には300円で御朱印が売られていました。

 セルフ販売のところを見ると普段から常駐しているわけではないようです。

 この時は財布の中に小銭もなく、泣く泣く諦めることに。

 御朱印が欲しい際は予め小銭を用意していたほうが良さそうです。

 もし、両替し忘れた際は『川の駅』の駐車場にある自動販売機で飲み物を購入しましょう。

納札所

 反対側は納札所となっています。

 昨今では、小さな小屋のような場所の中に投げ入れるところが増えている中、きちんとした造りになっていますね。

社殿

 山門を抜け、少し歩くと社殿のようなお堂が現れました。

 こちらの狛犬も笠を被っていますね。

 石像になっても熱中症対策を推奨する……お疲れ様です。

 ちなみに常香炉にて10円ほどで一本の線香を焚くことができます

お堂

 それでは参拝していきましょう。

 やはり夏とお寺の風景はよく似合います。

社寺名

 ここには銅鑼だけでなく鈴もあるようです。

 お堂の雰囲気といい、神仏習合の名残でしょうか。

苔むした境内

 それでは今度は境内を見渡していきましょう。

 苔むした感じが古刹の雰囲気を出していますね。

 写真ではとても静かなように見えますが、実際はアブやハチが辺りをうろついていたので心中は穏やかではありませんでした。

石碑

 こちらの石碑は一際大きく立派です。

 読める部分から考えると明治天皇がこの地に来たのでしょうか?

 とはいえ、明治天皇に関する石碑は意外とチラホラ見受けます。

 岩手中を巡り歩いたんですかね?

祀られている石

 その石碑の向かい側には祀られている石がありました。

 何も書かれておらず、守られるように鎮座しています。

 少し怖く感じますが、山が近く……何も記銘がない場合の多くは『山神』を祀るものが多いのでもしかしたらこの石もそうなのかもしれせん。

 とりあえず、手を合わせて一礼。

右の境内

 今度は反対……右側に行きましょう。

 陽が当たって明るい雰囲気ですが、アブやハチが……(以下略)

大きな祠

 まずは手前にある大きな祠から……賽銭箱はありませんでしたが、ちゃんと御神体らしきものは鎮座していました。

 さすがに撮影するのは気が引けるので外観のみです。

祠

 こちらの祠は遠くからの撮影……なぜかというと、中からオオスズメバチが何匹も出入りしていたからです。

 蜂の巣が中にあったらシャレにならないので、襲われない程度に参拝……。

水神の祠

 こちらは水神を祀る祠……この隣に『弓弭の泉』があります。

 黒い石碑の方には岩手沿岸部と石巻市まで流れる北上川の地図があります。

 沿岸部の白線が下り龍のように見えたあなたは私と同じく『龍神症候群』に罹っているかもしれません。

『龍神症候群』とは雲や川の形からなんでも龍神様がいるように見えてしまう症候群……これに罹ってしまうと大変です。なぜなら、どこにでも龍神様がいるように感じて、しまいにはお告げや視線など……(以下略)

弓弭の泉

 さて、皆さんお待たせしました!

 こちらが北上川の源泉とされる『弓弭の泉』です。

 柵は都度新調されているのか、材木が綺麗ですね。

泉の源泉

 そして、こちらが泉の源流が湧くとされている場所。

 この大木の根本から生まれる水があの大河を作り出していると思うと感慨深いものですね。

泉

 そんな小さな源流が溜まってできたのがこちらの泉……木の葉が積もっていますがとても綺麗ですね。

 泉の中には虫やアメンボなどは特に見られず……ただ、少し動いたり音が出ると波紋が広がります。

 不思議ですねぇ~!

 これこそが本物のパワースポットというものでしょう。

清水

 やがて溜まった水は静かに下に降りて、入り口隣にある水路を通り、流れます。

 そこから『北上川源流公園』を通り、我々のよく知る河川へと成長するのですね。

おわりに

 古刹の中にある大河の源流……その空間はとても神秘的で周辺はアブやハチに守られていた聖地でした。

 色々な意味で緊張感のあるお寺といっても過言ではないでしょう(笑)

 参道からお堂までは距離はそう遠くありませんが、階段が少しばかり急です。

 もし上るのが大変そうだと感じたならば、入り口のところに杖がありますのでそれを借りていくと比較的楽に上ることができます。

 夏は蝉しぐれを聞きながら古刹巡りをしてみたはいかがでしょうか?

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