ワサビを育てる稲荷の清流【遠野市‖稲荷穴】
『民話の里』として知られる遠野市は周囲を山々に囲まれ、田畑が美しい日本の原風景さながらの場所です。
一般に遠野と聞くと『妖怪』や『遠野物語』、『柳田国男』が有名どころとして挙げられますが、花巻市との境目にある宮守では“わさび”の栽培が盛んで名物となっています。
今回はそんなわさびを育て、岩手の名水としても選ばれている場所をご紹介します。
洞窟から湧き出る遠野の名水
概要
遠野市宮守にある白石地区は豊富な水を有する『達曽部川』が流れる地域。
その達曽部川は豊かな湧水によって形成され、水温は一年を通して8~15℃と一定に保たれていることもあってか、初春はヤマメ釣りの安定したスポット……また、東北一と称される根わさびを育んでいます。
今回ご紹介する『稲荷穴』は、その湧水地となっており、石灰岩層に発達した鍾乳洞。
その長さは約1,000mにも及ぶといわれていますが、現段階で確認されているのは約180mです。
そんな稲荷穴の湧き水は古くから知られており『いわての名水20選』にも選ばれるほど高く評価され、その名水を味わうため地元の方だけでなく多くの人々が汲みに訪れるほど。
付近には休憩所やキャンプ場があり、また毎年8月には『稲荷穴まつり』が開催され、その時期になるとさらに多くの人々で賑わいます。
そんな稲荷穴は遠野を代表とする光景に指定されており、遠野市が価値ある建造物や風景を指定する『遠野遺産第51号』に選ばれています。
由緒
名前の由来は稲荷穴の近くにある稲荷神社にちなんで付けられた、とされており…鍾乳洞の前にも朱塗りの鳥居がかけられ、信仰を集めています。
水汲み場は手前(炊事場)と奥(鍾乳洞前)に2か所あり、誰でも自由に水を汲むことができますが、現在は降雨等による衛生面による影響のためか、飲水用の水汲み場は手前のみとなっています。
アクセス
『稲荷穴』は達曽部川沿い『県道160号線(土淵達曾部線)』沿いにあります。
遠野市街地からかなり離れており、地理上では花巻市東和町や大迫町の方が近い位置にあります。
ルートとしては大迫町から遠野市街へと向かう『国道396号線(達曽部バイパス)』を走り、わさびラーメンで有名なお店『しらいし』さんのある交差点を大迫町方面へは右、遠野市街方面の場合は左へ曲がり、ずっと直進していきます。
直進していくとやがて大きな鳥居がある駐車場が見えてきますので、そこが目的地です。
東和町から行く場合は猿ヶ石川沿いを走る『国道283号線』を宮守方面(遠野・釜石方面)に走り、電車の撮影スポットで人気な『岩根橋』のあるT字路を左に曲がり、直進していくと『しらいし』さんのある交差点に合流することができます。
駐車場は広く、訪れる人はいるものの混雑はしないので問題なく車は停めることができるでしょう。
探勝レポート
それではさっそく探勝といきましょう!
今回は稲荷穴入り口、大鳥居前の駐車場に車を停めてスタートです。

道路沿いからでも分かる朱色の大鳥居……ここをくぐって奥へと向かいます。

近くに『稲荷穴キャンプ場』もあってか、休憩所や炊事場が歩道傍にあります。
この日は駐車場に誰も来ておらず……私一人の独壇場。
人混みが苦手なので、ありがたい反面……周囲が山に囲まれ、人家の類も傍に無いため、クマに襲われたり、怪我でもしたらと思うとやや緊張。

稲荷穴から湧き出る清水が小川を作り、沢となって流れる……美しい里山の光景です。
時期が秋ということもあり、哀愁も漂っています。

各所には配水用のパイプが張り巡らされていました。
ここから宮守名産のわさび田へ水が供給されるのでしょう。
なんだか『ぼくのなつやすみ2』を思い出します。
シリーズ2に出てくるおじちゃんは後半になるとわさびを栽培しているのが明らかになるんですよね。

水が豊富なためか、あちらこちらから清水が流れ出しています。
汲みたくなる気持ちはありますが、稲荷穴の取水場所は2か所……その内、飲水に適しているのは1か所のみとなっていますので、説明書きの無い湧き水には手を出さないのが無難です。

豊富な水による賜物か、少し歩いていくと池を発見!

中にはコイやフナが泳いでいました。
飼っているものでしょうか?
こういう水が綺麗な場所の溜池だと泳いでいるのは大抵、イワナかニジマスのイメージですが……まぁ、野生のものなら達曽部川にもいますから、飼うほど珍しくないのかもしれません。
それとも、私が見かけなかっただけでいたのかも……。

こちらが炊事場近くにある取水スポット(飲水可)の場所です。
このように近くにはちゃんと説明書きがあり、さらにこの場所では成分表や水質検査の証が看板となってあります。
基本、成分表などが掲示されている場所はそのままの飲水が可能な場所です。
実際、飲んでみるとまろやかで口当たりの良いお水でした。

溜池を通り過ぎ、さらに進んで行くと目の前に再び朱色の鳥居が姿を現しました。
この階段を上がった先に稲荷穴があります。

看板の主張というか圧が凄い……。
手水舎は自然の岩をそのまま使っているのでしょうか?
ワイルドですねぇ……。

近くには『遠野遺産』を証明する看板もありました。
それでは上がっていきましょう!

上がった先には小さいながらもぽっかりと穴が空いた洞窟が……こちらが稲荷穴です。
鍾乳洞とはいえ、龍泉洞のような規模ではなく、ごくごく一般的なものです。

近くには稲荷穴の説明書きがありました。
どうやら中で東西に分かれているようですね。
コウモリなども生息しているようです。

大人なら一人分がギリギリ入れるかどうかの穴の大きさです。
中には枯れ葉などがあり、少し奥には中に入れないよう鉄格子の扉がありました。
看板はありませんが、進入禁止ということですね。

こちらが洞窟前にあるもう一カ所の取水スポット。
ブラシなどが置いてあるのを考えると元はこちらがメインだったのでしょうが、現在は降雨などの影響で飲水に適していないとのこと……。
手を洗うくらいなら大丈夫でしょうかね?
岩手は広大で自然豊かなため、各所で湧き水スポットはたくさんあり、このように汲めるような場所もありますが、その全てが安全な水とは限りません。
川の水が見た目は綺麗でも野生動物の糞尿や死骸、田畑の化学肥料等で汚染され、直飲みが病気のリスクになる恐れがあるのと同じで、『名水』とされていてもそのまま飲めない場合もあります。
こちらでは降雨による影響とありましたが、洞窟近くの場合は病原菌を多く有するコウモリの糞によって汚染されている可能性も無いわけではありません。
直飲みをする場合はちゃんと近くに水質検査や成分表があり、飲水可であることを確認してから飲んでください。
ただ、どうしても「ここの水が飲みたいんだ!」という水マニアの方がいる場合はちゃんとろ過、煮沸(沸かしてお湯にする)をしてから口にしましょう。

傍には記念碑と社が鎮座していました。
ここの水を頂いたお礼をしに行きましょう。

こちらの社は『水神社』……白石稲荷神社とはまた別のようです。
祀っている神様は推測するに水を司る『弥都波能売神(みずはのめのかみ)』でしょうかね?
湧き水の近くにある神社で祀られている神様は大抵の場合、『弥都波能売神』か『瀬織津姫神』のどちらかになります。

こちらは完工記念碑。
恐らく水を引くための工事が終えられたことから建てられたのでしょう。

そうして、こちらが『白石稲荷神社』となります。
思ったよりも立派な社で少し驚きました。
由緒書き等の類は見当たりませんでしたが、恐らく祀られている神様は『宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)』でしょう。
近くに田畑……なおかつ、わさび田という農作物を育てているなら、可能性としては十分。
稲荷神は田畑……とりわけ五穀豊穣に御利益のある神様。
その田畑には水が必要不可欠なため、水のある場所に祀られていたり、水を司る龍神と一緒に祀られていることが多々あります。
ゆえに稲荷神と龍神は深い関わりがある、ともいわれていますね。
無事に訪れたことに感謝し、この度の探勝は終了。
おわりに
農村地域として根強い遠野には自然と動物に関わりが深い場所がたくさんあります。
稲荷穴はそんな遠野の中でも『水』との縁が特に強い所といえるかもしれません。
皆さんも釣りやキャンプといったアウトドアを楽しみながら、名物のわさびと共に名水も味わってみてはいかがでしょうか?





