岩手を代表する光景が見られる盛岡の展望台といえば『岩山展望台』がメジャーですが、実は盛岡には他にも展望台がいくつかあり、それぞれの場所から盛岡の風景を見ることができます。
その中でも盛岡市内と宿泊場所からも近い展望台があります。
盛岡の綺麗な街並み……見てみたいと思いませんか?
今回はそんな景色を眺めることができる展望台をご紹介します。
皇太子殿下のご成婚を記念して作られた展望台
概要
盛岡市にある『盛岡グランドホテル』……その裏手にある愛宕山に盛岡市を近くで見ることができる展望台があります。
この『愛宕山展望台』は平成6年7月に当時の皇太子殿下のご成婚を記念され竣功、整備された展望台です。
当時に皇太子殿下というと現在の天皇陛下ということになりますね。
盛岡を一望できる『岩山展望台』と違い、こちらの展望台は標高も低く、スケールも小さいように感じますが、盛岡の街並みを間近に見られることと、グランドホテルから徒歩10分ほどで行くことができる距離からアクセスは非常に容易な点が強みとなっています。
アクセス
『愛宕山展望台』は『盛岡グランドホテル』の裏手にあります。
ルートとしては『国道4号線』沿いから入りますが、近くにある『盛岡市中央公民館』へ入る交差点(中央公民館前交差点)の一本先にある交差点をグランドホテルに入るような形で曲がります(花巻方面は左折、上堂方面は右折)
そのままグランドホテルの入り口まで進むと『愛宕山記念公園』という石碑のある小道があるので、その道に入って進みます。
道中は待避所はありますが、ほぼ一方通行に近い細い道なので対向車に注意して進んでください。
軽自動車で通れるかどうかの細い道で訪れた時は不安に感じますが、少し進むとかなり広い駐車場が現れるのでご安心ください。
駐車場に車を停めればほどなくして展望台に到着できます。
心配な方はグランドホテルの駐車場に短時間ほど停めても良いかもしれませんが、夜景を見る際はホテルの利用客などが使用するので、公園駐車場を使用しましょう。
探勝レポート
それではさっそく探勝といきましょう!
今回はルートの詳細をお伝えすることも兼ねて、グランドホテル前からのスタートです。

こちらが盛岡市自慢の『盛岡グランドホテル』3つ星ホテルです。
盛岡市民にとっては研修場所や専門学校の卒業式の場などに使用され、馴染みが深いです。
そんなホテルの正面に……

『愛宕山記念公園』の石碑とともに展望台への道が出現。
この道を通っていきます。

道はこのように狭く、本当に車が通れるのか? と思うほど狭いです。
対向車が来てしまうと回避するのが難しい道ですが、昼間はほとんど車が通らないので初見の方は明るい時に行ったほうが良いでしょう。

上の方にはなんだかヒラヒラが付いたような変わった屋根の建物があります。
あちらが今回の目的地である展望台です。
こうして見ると距離があるように感じますが、歩いて10分と意外と短い距離にあります。

森を抜けた先にはなんと墓地が……実は愛宕山の麓には盛岡市斎場『やすらぎの丘』という大規模な火葬場と霊園があります。
墓地は整備されており、ここから眺める盛岡の景色と相まって綺麗です。

展望台のある方とは真逆ですが、十分景色としては元が取れる眺めです。

盛岡の景色を眺めながら林を抜けて歩いていきます。
ここから道幅も少しずつ広くなっていくので、いくらかは安心することができますね。


実は岩手山を見ることができるスポットでもあります。
農地のような拓けた土地に岩手山……盛岡市内でこのような景色を見ることができるのは数少ないので貴重です。

近くには分岐点を示す看板がありました。
左手には国道4号線のバイパスへ……斜め右に行けば高松の池に出られるみたいですね。
私はまだ踏破したことはないのですが『高松の池』周辺には各所に出ることができる散策コースがいくつかあり、野生のリスなどにも遭遇できるようです。
暖かくなってきた時に歩いてみたいものですね。
この日はウォーキングしている人がちらほらと……もしかしたら人気コースなのかもしれません。

道を歩いているとなんだか気になる石碑を発見。
近くに看板があったので、その内容を引用してお伝えします。
昭和抒情詩の原点と称される、詩誌「四季」の同人立原道造が、日本縦断紀行を企て、その北方を盛岡に設定して、来盛滞在したのは、昭和13年9月19日から10月19日までの丁度1ヶ月の間であった。詩人はこの北方で篤い人情に接し、また、祈りからの豊穣の季節に際会して、全く新しい美を学んだ。詩碑の建つ愛宕山中の、林檎園を控えたこの辺りは詩人がその逗留先とした山裾の「生々洞」から、よく散策にのぼってきたところで、滞在日記「盛岡ノート」には、それらの日々の情景ごこまやかに記されている。昭和50年10月19日、再訪を強く希望しながら、病とその死によって果たせなかった詩人の思いを受け入れようと、盛岡の人々らが起ち、中心となって、詩人離盛の日にちにちなむこの火に、全国初の詩碑建立を成した。詩碑「アダジオ」は滞在中の草稿だが、詩人のこの地に対する心情が爽やかに表現されている。
引用元:立原道造詩碑より
立原道造……恥ずかしながら名前が聞いたことがなかったので、後ほど調べてみると昭和初期の頃に活躍した詩人であり、建築家であったようです。
24歳という若さでその生涯を閉じましたが、その中で数々の賞を受賞し、その作風や芸術は後世に影響を与えたとのこと。
出身は東京でしたが、約1ヶ月ほど滞在したにも関わらず「また来たい」と強く希望されていた、とは岩手県人として誇らしく思いますね。
確かに林檎畑から臨む盛岡の景色は私も大好きです。

そんな詩碑と出会いながら先へ進むと駐車場に到着しました。
ご覧の通り、かなり広いのであの道ですが車で来ることを想定して作られたのでしょう。
もう少し道路も広くなれば、訪れる人も多くなりそうですが……。

それでは駐車場から展望台へと向かいましょう。
この辺りは野鳥も多く、キジやトビなども生息しておりバードウォッチングにぴったりです。

少し歩くとまた石碑のようなものを発見。
今度は誰でしょう……見てみると武島繫太郎という人物の歌碑にようです。
武島繁太郎(本名武田彩吉)は明治20年(1887)岩手郡滝沢村に生まれた。明治44年、岩手県師範学校本科を卒業後、盛岡市桜城小学校を振り出しに、県内の小・中・高等学校で教鞭をとり、50有余年にわたり本県教育界に貢献した。昭和46年11月、84歳で永眠。明治34年、東林寺住職晴山雪光師に和歌の導きを得て以来、「明星」「スバル」に親しみ、短歌、詩の製作を続ける。その後、村野次郎主宰の「香蘭」、北原白秋主宰の「多磨」同人となる。戦後は白秋系の「形式」「地平線」の同人として活躍。昭和22年、岩手県歌人クラブが結成されるや、その会長に推され、没年にいたるまで会の発展に努めた。昭和41年、日本歌人クラブ会員となる。歌集に「花わらび」「おくの草桁」があり、ふるさとの風物をいとおしみ、みちのくに生きるものの生活とその感慨が丹念にうたわれている。歌碑の歌は、こよなく愛し崇めた岩手山のなかの一首である。碑は昭和42年武島繁太郎先生歌碑建設委員会により建立される。
引用元:武島繁太郎歌碑より
こちらの方も恥ずかしながら名前も知らなかったので調べてみると、ほとんどこの歌碑の説明のとおりのことが記載されていました。
岩手の教育に多大な貢献をされた方なのですね……。
詩や歌など、やはり盛岡は文学に縁ある人々を惹きつける何かがあるみたいです。

そうこうしている内に、ようやく展望台のある広場に到着です。
私の道中の寄り道が多いので時間が掛かったように思うでしょうが、本当に短時間で着くことができます。



広場にはベンチのほか、トイレや水飲み場があります。
現在は冬季閉鎖のため、中に入れず水も出ませんが、春や夏はお子さんを連れて散歩なんかも良さそうです。
とはいえ、周りが森に囲まれているので熊が現れる可能性もありますが……。
おや、大きいな松の隣に何やら道が見えるような……

隠し通路発見!
この先には何があるのか?

階段を上がってみるとなんだか拓けた場所に出ました。
そこには『愛宕山南部太郎坊堂』と記銘が……。
もしや、ここにお堂かお寺でも建っていたのでしょうか?
調べると南部家が治めて藩政時代、南部領天台宗の大元である『広福寺法輪院』という大寺があったそうですが、明治維新で廃寺となり、取り壊されてしまったとのことです。
かなりの規模であったそうですが、実際に見てみたかったですね。

それでは寄り道もここまでにして、そろそろ本命である展望台に上がってみましょう。

ちなみに展望台横にはこのような小道がありますが、この道はすぐ近くにある『盛岡市中央公民館』へと繋がっています。
紅葉の時期になれば、公民館で楽しんだ後に展望台まで散策できるというわけです。

展望台へは中央にある階段から上がることができます。

階段は左右の伸びて上に繋がっており、二階で合流する仕様です。
このような変わった造りは嫌いじゃないですね。

二階は意外とスペースが広く、複数人で上がっても問題ありません。
それでは景色はどうでしょうか?

これはなかなか……良い眺めですね!
手前にあるのがグランドホテル……その向こうが盛岡市街です。
少し各所をアップして見てみましょう。

こちらは展望台の左側の風景。
左手奥に見えるのが動物園や遊園地などがある岩山です。
郊外らしく住宅が立ち並んでいるのが分かります。

こちらが中央に位置する部分……鮭の遡上で有名な中津川が良く見え、市街地ではあるものの開放感のある景色ですね。
遠くに見える山々も美しいです。

先ほど通ってきた道もこのように丸わかり。
こうして見るとやはり近いです。

こちらは右側……盛岡の中心部らしく赤い鉄塔に高い建物が立ち並んでいます。
残念ながらこの展望台からでは岩手山まで見ることはできませんが、それでも良い眺め。
街の夜景だけ楽しみたい方にはぴったりの場所といえるでしょう。
おわりに
市街からほど近く、自然のある中でのんびりと過ごしたい方には最適の場所となります。
夜景や紅葉といった行楽にちょっと立ち寄りたい場合には良いかもしれません。
遠くには行きたくないけど、近場で盛岡の風景を眺めてみたい……そんな方は愛宕山を訪れてみてはいかがでしょうか?
先人たちの思いに触れながら、景色を楽しむことができますよ。