備忘録

〖備忘録 第31譚〗欲は善か悪か?

 おばんです、シードルです。

 欲望……この言葉を聞くとほとんどの方はあまり良いイメージがしないと思います。

 強欲、貪欲、食欲、性欲……色々と挙げるとキリがありませんが、満たされることがなく渇きや飢えが底なし沼のようになってやがて抜けられなくなるもの、そういう認識があると思います。

 かくいう私自身もそういったもの良い思いをしない人間の内の一人でした。

 欲を捨て、己を高めるために研鑽する……いわゆる『向上心』というものを美徳としていた傾向がありました。

 ですが、ふと考えるとこの『向上心』というのも根本的には同じ『欲』なんですよね。

 強くなりたい、モテたい、能力を上げたい……自身の欲望からきています。

 両者の違いを上げるとすれば『変化』の有無といったところでしょう。

 己を変えたい、環境を変えたい……それが『向上心』

 変える気もないし、変わりたいとも思わずただ楽しく満たされたい……それが『欲望』

 変化があるかないかで、前者が善とされ後者が悪とされる……元は同じ筈なのに。

 欲を持つことは悪いことではありません。

 マズローの5段階欲求というのもありますし、生物にとって食欲、性欲、睡眠欲といった三大欲求は生きていくうえで必要不可欠です。

 一方で仏教やキリスト教イスラム教といった三大宗教では『欲』というものを危険視し、特に仏教では『三毒』とまでいわれるほど『欲』は悪として扱われています。

 欲を捨てれば人として幸福に生きられる……苦痛から解放される。

 古から連綿と続く教えでもありますし、欲は果てないものですから言っていることは正しいでしょう。

 じゃあ一体どちらが正解なのか?

 正直、賢人でもなければ識者でもない一般人の私の意見ではどちらも正解だと思います。

 ただし……

・過度になり過ぎない

・他人へ強要しない

・他人に迷惑をかけず、自己で完結する

が、絶対条件として挙げられ……また視点によって変わるものだと考えられます。

 視点というのは…社会的、身体的、精神的という意味です。

 欲は自制し、なるべく取り除かなくてはならない……これは精神的視点では心を穏やかにすることができます。

 しかし、身体的視点から見れば食欲を自制し、取り除いたら死んでしまいます。睡眠欲も同様です。

 性欲に至ってはそのようなことはないでしょうが、適度な自慰行為はストレスの緩和や免疫向上、ガンの抑制に繋がるという情報もあるので、やはり必要といえます。

 社会的視点からすれば、欲があることによって様々な体験に対して行動的になり、深みのある人間となるでしょう。

 このように各視点から見ると完全に『悪』というわけではないことが分かります。

 ただし、これらが過度になり過ぎると食べすぎによって病気を誘発したり、寝すぎで時間を失ったり…男女遊びが過ぎてお金や健康を逆に失ったりするリスクがあります。

 また、物欲や承認欲求も同様……こうなるといずれも何かを失った際、精神的に大きなショックを受け『悪』となります。

 こうなることがないように三大宗教では『欲』を『悪』として説いているわけです……中途半端は嫌われる傾向にありますが、何事もほどほどが大事。

 次に他人へ強要しない、ということに関してですが……これは他人が何かに対して悩み、アドバイスを求めてきた場合については例外です。一例として自分の体験を話す分にも問題はないでしょう。

 ただし、平穏な日々を送っている人に対し自分が良かったからといって無理やり勧誘するのはダメです。

 例えるなら、自分は向上心が強く真面目で努力家……だけど、周りの人はタイプが違う。

 だから熱意を持って周りにも発破をかけて、自分のやり方を浸透させようとする……よくドラマやアニメなんかで部活や売り上げの低い会社に入った熱血主人公が周りを引っ張て、頂点を目指すというやつです。

 確かにロマンはありますが、それはあくまで能力があるのに使い方が分からなかったり、望んでいるけど諦めている場合に有効な話であって……能力もなければ、望んでもいない場合は余計なお世話といえるでしょう。

 自分は自分、他人は他人なのですから、合う合わないはあります……必要と思ったら取り入れる、このスタイルで良いと思います。

 もし、自分の理想とする形があるならば実現できそうなところに己で行けばいいのです。

 人間は思っている以上に色々なタイプがいるので、きっと巡り合うことができます。

 最後に他人に迷惑をかけず、自己で完結する……これは先ほどの強要しない、と似ている部分はありますが、少し違う点としては『他人に被害を与えない』です。

 よくある例としては承認欲求が満たされないから暴行、イジメ、殺人などを行う……他人から金品を奪うなどですね。

 己の力で何とかするならまだしも、己でできないから他人のもので補うというのはあってはならないことでしょう。

 向こうも利があるもしくは理解がある中でやり取りをするならまだセーフかもしれませんが、基本は自分の欲は自分でなんとかするのが一番良いでしょう。

 過去、私が会った人の中(男女ともに一人)でですが……

「自分の欲しいものは他人から奪う。それが一番手っ取り早くて楽だから……もし、手に入らなかったら壊すし、追い出す。自分の欲しいものを持っていて幸せそうなヤツを見るとイライラするから……」

という人がいました。

 傍から見ればとんでもない人ですが、そういう人に限って世渡り上手で人からの評判は意外といいものです。

 その人はお金や恋人、人脈などを奪い続けた結果……人づてで聞いた現在では給料の良い会社に就職し、外車に乗り、結婚し、家賃の高いマンションで暮らしています。

 幸せかどうかは私には分かりませんが、他人から見れば良い暮らしでしょう。

 因果応報や罰の有無についてはさっぱり分かりませんが、事実として現実にこのような人がいるということを一応お伝えします。

 人間社会では欲深い人ほど成功を収めやすく、たとえ他人の幸せを壊し、奪うようなことがあっても見た目が華やかであったり、強い力を持っていれば周りが味方をして助けてくれる仕組みになっています。

 それもその人の能力であり、才能の一部なので生きるという意味では間違いではないでしょう。

 幸せというのも人それぞれですからね。

 欲をコントロールするうえで大事なのは自分のことだけしか考えないのか(本能中心)、他人のことも考えられるのか(理性中心)……そのどちらかだと思います。

 皆さんはどちらを中心にしたいと思いますか?

 私は……後者を中心にしたいですが、なかなかコントロールするのに苦労しています。

 日々、精進あるのみですね。

 

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