岩手と秋田の県境に位置する八幡平は広大な樹海があり、その中には貴重な湿地帯や温泉などが湧き上がっています。
そんな八幡平は例年、4月の下旬もしくは5月上旬頃から『八幡平アスピーテライン』が開通し、頂上付近まで車で行くことができます。
その時期はまだ雪が残っており、風も強く、標高が高いこともあってか気温がとても低く、寒さに厳しい場所ではありますが、短期間でのみ幻の絶景を見ることができます。
今回はそんな八幡平の雪解け時期にしか見られない幻の絶景についてご紹介したいと思います。
開眼する龍の瞳
ドラゴンアイとは?
幻の絶景は『八幡平ドラゴンアイ』と呼ばれています。
八幡平の標高1600m付近にある『鏡沼』に積もった雪が、周辺部と中心部だけ解けて、青い水面と白い雪がドーナツ状となることで、上から眺めると『龍の眼』に見えることからそう呼ばれるようになりました。
けれども、なぜ幻と呼ばれるのか……?
それはドラゴンアイが限られた時期にしか見ることができない景色だからです。
ドラゴンアイが見られる時期は例年、5月の下旬~6月の上旬頃にかけてとなります。
期間としてはだいたい1~2週間くらいとなりますが、その年の積雪や気温、天候によって大きく左右され、その中でも特に瞳が開いた状態となる『開眼』は開いてから3、4日ほどしか見ることができません。
また、形が綺麗な状態で開眼したドラゴンアイを見るにはさらに難易度が上がり、雪が割れて瞳にヒビが入ったり、瞳が開く前に雪が解けてしまい、半目となることもしばしばです。
アクセス
そんな八幡平ドラゴンアイは一見さんの方々が時期や状況を聞くと「行くだけで難しそう……」と二の足を踏みそうになりますが、意外と簡単に見ることができます。
というのも実はバス停や大規模な駐車場のある『八幡平レストハウス』から歩いてそう遠くない場所にあるからです。
また、多くの観光客や登山客もいますので人の流れに付いていくと到着することができます。
人がいなくなっても案内板が所々にあるのでルートを逸れて樹林帯に入らない限りは迷う心配はありません。(というより、膨大な雪があるのでルートから外れる方が大変です)
レストハウスからドラゴンアイまではゆっくり歩いて約20分ほど……若い方や体力のある方は10~15分ほどで行けるそうです。
その八幡平レストハウスに行くには……
・秋田側の『後生掛温泉』を通るルート
・岩手の『松川温泉』を通るルート(八幡平樹海ライン)
・岩手の『松尾鉱山』から入るルート(八幡平アスピーテライン)
の3種類があります。
一番のオススメはメインルートである『八幡平アスピーテライン』です。
各種交通機関の利用の場合は以下の目安となります。
交通手段 | ルート |
電車&バス利用 | ・JR『盛岡駅』→バスに乗車し『八幡平頂上』で下車【約2時間】 ・JR『田沢湖駅』→バスに乗車し『八幡平頂上』で下車【約2時間15分】 ・JR『鹿角花輪駅』からバスに乗車し『八幡平頂上』で下車【約1時間30分】 |
車利用 | ・東北自動車道『鹿角八幡平IC』から『八幡平レストハウス駐車場』【約1時間ほど】 ・東北自動車道『松尾八幡平IC』から『八幡平レストハウス駐車場』【約40分ほど】 |
また、八幡平アスピーテラインに入ると『八幡平レストハウス』までトイレや売店がない状態が続きますので、岩手側から入る際はアスピーテライン入り口にある『松尾八幡平ビジターセンター八幡平市観光協会』にてトイレ休憩や物品の準備をしっかりと行ってから行くことをオススメします。
(秋田側の場合は途中『八幡平ビジターセンター』がありますが、『八幡平樹海ライン』から入った際は温泉宿はありますが、気軽なトイレ休憩や売店がない状態ですので、準備の点からも『八幡平アスピーテライン』ルートを強くオススメします)
ちなみに八幡平レストハウス駐車場は大規模な駐車場ですが、二輪車は100円、乗用車は500円と有料駐車場となっています。
余談ですが、レストハウス下にある空き地は無料で駐車できますが、ドラゴンアイへの入り口である散策路まで距離があり、駐車場数も少ないためすぐに埋まってしまいます。
こちらに駐車してもレストハウスは利用できますし、ドラゴンアイは無料で見ることができますので自身の体力と状況に合わせご利用ください。
探勝レポート
レストハウス~ドラゴンアイ
それではさっそく探勝といきましょう!
今回は八幡平レストハウスの駐車場からのスタートとなります。
レストハウス駐車場の奥にある高台からの一枚。
この日は快晴……ドラゴンアイがどのような状態かは行って見ないと分かりませんが、天候と気温に関してはクリアです。
駐車場近くの斜面にはまだ雪が残っており、なんとスキーをしている方もいました!
ちょっとでも逸れてしまったら藪から下に真っ逆さまな状況……私は怖くてできません。
禁止の看板はなく、駐車場にいるレストハウス関係者も何も言っていないようですが、滑っても良いものなのでしょうか?
ちなみに奥の方に車が止まっている場所が無料駐車場です。
歩くと実感はあまりないのですが、こうして見ると意外と距離があります。
こちらは秋田、松川方面の道……奥に細く伸びているのが秋田方面。
手前の道が松川方面となっております。
しかし、清々しいほどの景色……これだけで満足してしまいそうですが、本番はこれからです。
それではドラゴンアイに向けていざ出発!
入り口はこのような石畳の道や階段があり、序盤はとても歩きやすいです。
しかし、行くにつれてどんどん雪が多くなり中盤に至ってはもはや雪の階段と化しています。
さらに踏み固められた雪がほどよく溶けることで濡れており、とても滑りやすくなっております。
針葉樹林帯に囲まれているせいか、風も吹き抜けて余計に寒い!
行く場合は防寒着(ウェアやウィンドブレーカー)や長靴または滑り止めの付いた靴を履いていくことを強くオススメします。
そうして、そんな雪の道を進んでしばらくすると何やら人だかりが……!
そして……
ついに、鏡沼のドラゴンアイに到着!
入り口すぐの場所はこのような側面となっていますが、見る限り瞳が開いて『開眼』しています!
いささか雪が黒く汚れているのはしょうがないとして……果たしてどのような状態なのか?
上から見てみましょう!
…………。
…………うおぉぉぉい!!??
なんと……
半目⁉
横から見た時は期待していたのに……上から見たら雪が半分解けて半目……。
天気も良いし、瞳も開き、水も若干青い、という最高な条件なのに……少し遅かったようです(´;ω;`)
いや、これだけでもめちゃくちゃ綺麗なんですが……それだけにめちゃくちゃ悔しいです。
やはり観光案内で使われているような状態は、素人ではなかなかお目にかかれないようです。
ドラゴンアイだけに……
しかもこの年はなんとドラゴンアイに進入してスキーをしていたという人がいたものですから、雪が汚れているのも解けるのが早まったのもその影響では……?
と他人のせいにしてしまう悪い考えが浮かびます。
こればかりは時の運なので仕方ないですが、ドラゴンアイに進入する危険な行為は……
絶対にやめましょう!!
モラルやマナーはもちろんのこと雪が割れて落ちてしまったら命の危険があります。
そうなってしまったら、ドラゴンアイを見ることもできなくなってしまいますからね。
未来へこのような貴重な宝を残すためにもモラルとマナーは絶対に守りましょう!
ちなみにドラゴンアイにも別の沼があり……
こちらは『メガネ沼』と呼ばれています。
由来としては奥の方に見えるドラゴンアイの鏡沼と並ぶとメガネのように見えるからとのこと。
こちらの沼は程よく雪が解けた頃に水面が綺麗な雪解け水によって、鮮やかなエメラルドグリーンになることから別名『ドラゴンの涙』という隠れた絶景スポットになっています。
……今回は雪が解け過ぎてることにより『ドラゴンの涙』は見られず、残念な結果に。
ただ、綺麗なことに変わりはないので悔いはありません。
天気は快晴……美しい泣き顔よりも綺麗な笑顔を見ることができました(^^)
八幡平頂上へ
さて、ドラゴンアイが見られたのでここで今回の記事は終了! と本来はいきたいのですが、実はドラゴンアイ周辺には他にも素晴らしい景色が見られる場所がたくさんありますので、少し寄り道してご紹介したいと思います。
ドラゴンアイを過ぎ、もう少し先に進むと『八幡平頂上』へ行くことができます。
道中は先ほどまでと同様の道のりなので岩を登ったり、鎖や梯子を使ったりといった過酷なものではありませんので、ご安心ください。
ウッドデッキを上るとこのように頂上の証があります。
ウッドデッキからの眺めをどこもかしこも360°見ても空と針葉樹林mの森ばかりですが、不思議な達成感と開放感を味わえます。
この辺りは『八幡平自然探勝路』とも呼ばれており、トレッキングにはぴったりとなっております。
今度はここからレストハウスに向けて戻ります。
八幡平頂上~レストハウス
安全に戻るためには来た道を引き返すのが定石となっていますが、この散策路は案内板も所々にあるため違うルートから戻ることも可能です。
今回は『ガマ沼』『八幡沼』『見返り峠』を通るルートを選択しました。
まず最初に現れるのは『ガマ沼』です。
青空と遠く見える氷河のような雪が相まって、雪解け水で磨がれた綺麗な水面が鏡のように反射し美しい光景を作り出しています。
もうこっちが『鏡沼』と言われても不思議じゃないですね。
ガマ沼にも眺望に適したウッドデッキがあり、このような景色を見ることができます。
このように綺麗な沼ですがここら一帯の沼は約六千年前の火口群に水がたまってできた『火口湖沼群』で魚は一匹もいません。
それでも何かいないかと目を凝らした次の瞬間……背後から轟音が!
見ると水面に波紋が広がり、雪の一部が崩落しています。
どうやら雪崩があったようです。
冬が明け、気温が上がる春先の山ではよくあることですが、この雪崩による被害は毎年のごとく出ています。
それに雪崩だけでなく、雪の一部の崩落やこのように川や湖に大量の雪が落ちることによる水かさの急激な増加、雪解け水による川の増水など危険は多岐に渡ります。
山や川に行く際には十分注意して行きたいですね。
自分への良い戒めにもなりました。
そして、ガマ沼のすぐ背後には……
八幡平が誇る最大の沼『八幡沼』があります。
この日は天気が特段に良かったせいか青空を目一杯吸い込み、青々と美しい八幡沼を撮ることができました!
ドラゴンアイの不足だった件は私個人としてはこれでチャラになりました。
左の方に写る建物は『陵雲荘』でトイレなどがあり休憩することができます。
その陵雲荘のあるルートを通ると『源太森』という場所に出ますが、今回はそこには行かずに先に進みます。
先に進むとガマ沼の岸ぎりぎりを通ることができます。
ここからの景色もまた絶景ですが、先ほどの崩落があった際の波紋の大きさを考えると膝くらいの津波が押し寄せ、襲われると考えるとゾッとします。
美しいバラには棘がある……なんて言いますが、何事も良い面ばかりでなく悪い面もあるということを頭の片隅に入れておかなければなりません。
本当の意味で愛でるというのはそういう面があることを理解し、受け入れるということではないでしょうか?
無論、受け入れられない場合もありますからその時は無理はしなくてもいいでしょう。
ただ、良い所ばかりに目が行き、悪い所は見えないフリをして何かが起こった際は責任を捨てて逃げ出す、というのはあまりにも勝手だと私は思います。
と、山奥にまで来て思慮に耽りながら先を進みます。
次なる目的地は『見返り峠』ですが、道中はもう完全なる雪原……もはやツンドラか? と思ってします。
見渡す限りの雪原と針葉樹……ただこうした中をただ一人歩いているとなんだか煩雑とした人間社会から離れて旅をしているようで少し気分が良いです。
そうして考え事をしながら歩いていると『見返り峠』に到着しました。
時間は計っていませんがあっという間だった気がします。
眼下に広がる樹海と遠くに見える山、頭上に近い雲……全てが雄大です!
ここまで来るとレストハウスはすぐそこなので、今回の探勝はここまでとなります。
おわりに
冬から春に移ろう時期に現れる幻の龍眼……その瞳はどんな状態であっても素晴らしいものでした。
また、その瞳の先にも数々の素晴らしい景色があり、改めて考えさせられるとともに自然の脅威について学び直す機会を得ることができました。
皆さんも運動や自分を見つめ直す際は心現れる景色を眺めながら思慮に耽ってはいかがでしょうか?
おまけ(ギャラリー)
ここでは今回とは違う年に撮影した八幡平の名所を掲載しています。
2022年のものと見比べながら眺めていってください(^^♪
こちらは瞳はまだ開いておらず、残念ながら開く前に眼に亀裂が入ってしまいました。
しかし、その周りにある水は鮮やかなブルーの色合いを出しています。
雪も残り、天気もあまりよくはありませんがこれはこれで気に入っている一枚です。