近年、クマによる被害が増加し最近は田畑はおろか市街地まで出没するようになりました。
人口増加に伴い、クマの生息域にまで人間の開発の手が伸びその生息域を脅かしたのが原因ともいわれていますが、他の地域からの野生動物の生息域の拡大や食料不足など様々な要因が絡んで起きていることだと思います。
そのさまざまある要因の一つとして挙げられているのがマタギの減少です。
マタギとは北東北を中心に活躍していた山専門の猟師のことで、大抵昔はクマが出た際は冬季間の猟として多くの山にマタギが入っていったとされています。
マタギはただの鉄砲を持った猟師というだけでなく、山神を信仰として山に棲む動物達へ日々命の感謝と畏敬の念を抱く、誇り高い猟師です。
そんな彼らは山の動物達と里の人間達とのバランスを取り持つ番人のような重要な役割を担っていましたが、そんな彼らの衰退が人間と動物との境界があやふやになり、クマが人里に多く降りてくる所以ともいわれています。
便利になってきた世の中だからこそ、私達は今一度先人達の教えを振り返る必要があるのかもしれません。
今回はそんなマタギ達が山に入る前に祈願したといわれる滝についてご紹介したいと思います。
入山安全を祈願した滝
概要
マタギが入山する際に安全を祈願したという滝は矢巾町の南昌山の麓にある『幣掛(ぬさかけ)の滝』です。
幣とはよく神社で神主の方がお祓いをする際に用いる棒の先に付いた白い紙のヒラヒラしたもので『幣帛(へいはく)』ともいわれ、しめ縄なんかにも付いているアレです。
この幣懸の滝がある南昌山自体が数多くの伝説を持つ特殊な山であり、オカルト好きの間では南昌山の中を通るトンネルで幽霊を見た、とか南昌山近くの空でUFOらしき未確認飛行物体を何度も見た、という話し事欠かない場所です。
伝説だけでなく、超常現象も起きている点から昔から人々が崇め奉るのも分かる気がします。
また、この南昌山は宮沢賢治がよく鉱物採取に訪れていた山でもあり、あの名作『銀河鉄道の夜』の舞台になっている場所でも知られています。
アクセス
そんな幣懸の滝は周辺が水辺の里として整備されており、駐車場もあることから手軽に遊びに行くことができます。
交通ルートとしては『南昌病院』さん『矢巾温泉 南昌の湯』さんを目指して行くとすぐに到着することができます。
『矢巾温泉』以降は山道が少し続き、車で行くと不安に思うかもしれませんが、幣掛の滝近くまで行くと拓けた場所に出ますのでそのまま進んで大丈夫です。
ただし、大雨や土砂崩れなどが発生した際は道が途中で通行止めになっていることがありますので、台風後や梅雨時期に行く際は気を注意してください。
また付近はクマ出没地域となっていますので、行く際は熊よけスプレーや熊よけの鈴、ラジオの携帯を強くオススメします。
探勝レポート
幣懸の滝へ
それではさっそく探勝といきましょう!
今回は『幣懸の滝』の少し手前から車を停めてスタートです。
幣掛の滝の手前の水路は随分と高くコンクリートの壁が作られています。
向こうの森側の土砂崩れ防止のための補強でしょうか?
反対にこちら側は水辺に簡単に触れることができます。
向こう側の岸辺には大きな木が……リスやフクロウが棲んでいてもおかしくはないですね。
それにしても苔むした岩々が自然の豊かさを表しています。
水辺の里の入り口に到着しました。
川の方はきっちりと整備されていますね。
水量も多くはなく浅瀬で水の勢いもそれほど強くはないので水辺で遊ぶには十分です。
釣り人視点では良い堰提です。
もし、イワナやヤマメがいたら良いポイントになっていますが、残念ながらこの川に渓流魚はいないです。
水生昆虫などを採取するには絶好の場所ではありますね。
山の中にありますが整備されているだけあってとても歩きやすいです。
休憩所の東屋があるのはとても嬉しいですね。
ただ強いていうと周囲が山の斜面に囲まれているため、万が一クマに斜面から駆け下りられて強襲されたらたまったものじゃありませんが……。
幣掛の滝に行く前に……説明板です。
内容は概要とほとんど同じことが書かれています。
そうして、諸々を見た後に進んでいくと……
本命の幣懸の滝が姿を現しました!
落差は約7メートルと思っていたよりも小ぶりですが、そのぶん川の水量も少なく、マイナスイオンである滝の飛沫もちょうどいいので、安全にほどよく楽しめます。
しかし、足場となる岩場は濡れているうえに所々が苔むしているので滑りやすいので転倒注意です。
ちなみにこの上には『南昌大滝』と『北ノ沢大滝』がありますが、幣懸の滝よりも見るハードルが上がります。
今回は行ける所まで行ってみましょう!
さらに上流へ…
幣懸の滝の近くには上に行くことが出来る階段があります。
それでは上っていきましょう!
苔むした岩々と木々が佇んでいます。
この時期は春先ですが、夏などに行けば視界はほとんど塞がれるでしょう。
このような可憐な花は町中では決して見られず、山に入ってこそ見られるものですね。
この小さな景色も立派な景勝です。
さて、しばらく歩いていくと少し遠くから何やら滝が見えてきました。
もう少し近づいて見てみましょう。
遠くではそれほどではなかったのですが、近くで見るとなかなかの落差の滝です。
これが南昌大滝でしょうか?
少なくとも幣懸の滝よりは大きいようですし、滝壺の水深もかなり深そうです。
この滝より上は道路が封鎖されていて行けなかったため、今回の探勝はここまでです。
いつかもう一つの北ノ沢大滝も行ってみたいものですね!
おわりに
マタギが立ち入るのに祈願する場所であって、気軽に行ける場所であってもなんだか不思議な感覚を感じました。
しかし、それ以上に滝の飛沫と水辺が間近に感じられる良スポットであることも感じられました。
今回は雪が溶けた春先の訪問もあってか、山の木々も少なかったですが、深緑の輝く夏と紅葉の時期はとても綺麗な場所だろうとも思いました。
温暖化が進み、これから暑くなる日々……一時の涼と自然の癒やしを求め、皆さんも訪れてみてはいかがでしょうか?