自然

秋色に染まる紅の渓谷【八幡平市‖松川渓谷】

 日差しが強い夏の終わり……一雨降ると季節は秋へと急転直下していきます。

 そんな秋は移り変わりの象徴として知られ、秋の釣瓶落とし……衣替えの秋として日も気温も急激に変化します。

 とはいえ、秋に装いを変えるのは人間だけではありません。

 その代表的なものといえば、山の衣替え……紅葉でしょう。

 輝く緑から鮮やかな紅に染まる自然の模様替え……今回はそんな紅葉を楽しむことが絶景スポットをご紹介します。

湯泉湧く渓谷のドレスアップ

 岩手山のお膝元……八幡平市の中でも雫石町寄りにあり『岩手山七滝コース』の登山口のほど近くに『松川渓谷』があります。

 川沿いには多くの湯泉が湧いており『松川温泉』という名湯で知られているほか、春は渓流釣り……夏は登山……冬はスキーといったようにその雄大な自然を心行くまで楽しむことができるスポットが点在しています。

『八幡平アスピーテライン』へ続く『八幡平樹海ライン』や高速道路のICにも近いといったアクセスの豊富さも魅力を一層掻き立てる要素の一つでしょう。

 渓谷沿いにはブナやカエデといった落葉樹が多く……秋は紅葉の名所としても知られ『森の大橋』から眺める絶景は毎年の紅葉中継のマストにもなっており、県内外から多くの人々が訪れ、楽しまれています。

 紅葉のベストスポットとされている場所としては川と紅葉を見ることができる『森の大橋』、巨大な岸壁と共に見ることができる『玄武岩』がポイントとなっています。

 また、場所としては渓谷より少し逸れてしまいますが、現在車両通行止めとなっている『松川大橋』もオススメです。

アクセス

『松川渓谷』は八幡平リゾート『下倉スキー場』『パノラマスキー場』に挟まれる形で松川の川沿いにあります。

 ルートとしては国道282号線を走り『道の駅 にしね』から『焼走り熔岩流』(県道233号線)へと向かい、『岩手山パノラマライン』に入って『松川温泉郷』を目指すと道中に紅葉の名所『森の大橋』が現れます。

 駐車場所としては『森の大橋』周辺の道路に停めることは一応できますが、紅葉シーズンになると人が多く、駐車することが困難になる場合が多いので松川沿いにある『湯ノ又公園』に停めるのがオススメです。

『湯ノ又公園』から『森の大橋』までの間にはもう一つの紅葉スポットである『玄武岩』もありますので、秋の日差しを浴びながらの散策で両方一緒に楽しむことができます。

 また少し遠くなってしまいますが『松川温泉郷』周辺には沼地も点在していますので、そちらにも見どころはあります。

 さらには名湯に浸かりながら紅葉狩りをするとなんともいえない贅沢な気分を味わうことができます。

 ちなみにルートの目印として紹介した『焼走り熔岩流』はこちら▼の記事に詳しく記載しています。

焼走り熔岩流 散策3
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探勝レポート

 それではさっそく探勝といきましょう!

 今回は『湯ノ又公園』の駐車場に停めていますが、『森の大橋』からのスタートとなります。

森の大橋からの風景

『森の大橋』自体はこの日、人や交通量が多く危険なため撮影できませんでした。

 代わりに橋からの紅葉の景色をご覧ください!

 深い森がどこまでも続き、紅葉の紅、橙……ほのかにまだ残る緑がミルフィーユのように重なって美しいです。

紅葉の下

 そんな紅葉の眼下には松川が流れており、綺麗な水がわずかに青みがかっているように見えます。

 隅の方には紅葉の渓谷に添えるように細い滝も流れ落ちています。

大きな堰堤

 反対側には砂防の役割を果たす落差の大きい堰堤が滝のようになっています。

 この画像はかなりアップで撮影しましたが、実際に橋からの眺めはかなり高く……若干高所恐怖症気味の私は真下を覗き込むのに相当時間がかかりました。

 高所からの眺めは好きですが、高所恐怖症……矛盾だらけの人間です。

道中の紅葉1

 それでは『湯ノ又公園』へ戻ってみましょう。

 帰りの道中でも紅葉はとても素晴らしいです。

 広葉樹が多いのでどんぐりなどの木の実も落ちています。

 秋を題材にした工作の材料集めには事欠かないですね。

湯ノ又公園 川沿い

『湯ノ又公園』からは近くの松川に下りることができます。

 こちらの紅葉も渓谷と調和しており、綺麗な様相を醸し出しています。

松川の支流

 松川にはいくつもの支流があり、山から流れ込んでいる沢を見つけることができます。

 沢も間近で見ることができるのでカメラ撮影が苦手な私でも簡単に迫力ある写真を撮ることができます。

 ただ濡らさないように注意が必要です。

松川渓谷

 渓流特有のゴツゴツとした河原に紅葉と青空がよく映えます。

 秋は風景の彩が良く、贅沢な気分になれます。

川を流れる落ち葉

 それでは流れる落ち葉とともに少し川を下ってみましょう。

玄武岩

 少し下ってみるとなんだか特徴ある岸壁が現れました。

 これがもう一つのスポット『玄武岩』です。

玄武岩全体

『玄武岩』は川向こうにありますが、このように遠目から見てもかなり大きいです。

 紅葉も相まって、まるで髪を染めた厳つい顔のようにも見えます。

玄武岩と松川

 とはいえ、松川の紅葉に玄武岩は実に映えています。

 惜しむらくは秋の日差しが強すぎて逆光が入ってしまったこと……うーむ、私のカメラの腕前が残念なばかりに申し訳ないです。

 しかし、素材としてはどれも一級品……カメラ撮影の練習にも最適な場所です。

松川

 川面がキラキラと輝いていますね。

 どこもかしこも渓流釣りのポイントとしては申し分ないです。

 渓流釣りのシーズンは3月~9月まで……この時は残念ながらシーズンオフの禁漁なので釣りをすることはできませんが、機会があれば挑戦したいですね。

 ちなみに岩手の遊漁期間や可能河川についてはこちら▼の記事に紹介しています。

岩手が誇る釣りの年パス【岩手県内共通遊漁承認証】  春になり岩手では釣り人が川に竿を出す姿がちらほらと見えるようになりました。  冬期の間、道具の手入れや入念な準備をしていた太公...

 それでは再び湯ノ又公園へと戻りましょう。

湯ノ又公園 堰堤

『湯ノ又公園』には砂防のための堰堤があります。

 原生林の中にある人工物ではありますが、上手い具合に調和すると良い景色を作り出すのはなぜなのでしょう?

 人工の滝と紅葉のコラボレーションも悪くないですね。

沢と紅葉

 このような小さな流れ込みでも紅葉の中で撮ればプロになったような気分になれます。

 俗にいう紅葉マジックというやつですね。

 そして、日常の風景を撮影すると現実に戻される……山というのは良くも悪くも俗世間と隔離させる不思議な力を持っているようです。

芭蕉沼と紅葉

 少し寄り道して、こちらは山の方にある『芭蕉沼』……春頃には水芭蕉の群生があるこの沼ですが、秋は落ち葉に覆われた沼地となっています。

 哀愁漂うこの景色もまた秋ならではですね。

追記

 ここからは2024年10月に訪れた松川渓谷の画像をアップします。

山と紅葉

 今回行った時はあいにくの曇天でしたが、紅葉の美しさは相変わらず空の暗さに負けないくらい紅く色づいていますね。

森の大橋

 松川渓谷代表の名所『森の大橋』からの瀑布も迫力満点です!

森の大橋 別アングル

 こちらは別アングルからの撮影……奇しくも前回と似たような状態に。

 紅葉の色づきもほぼ一緒です。

 葉の色は日光の当たり具合によって変わるそうですが、ほぼ同じ量の日光だったのか……はたまた、今回もたまたまなのか……。

松川渓谷の秘境へ

 さて、今回は前回では紹介できなかった場所へご案内したいと思います。

 現地へ行った方なら気付いた方もいらっしゃったと思いますが……

山に架かる橋

 この謎の白い橋……どこにあるのか、気になっている人もいるのではないでしょうか?

 初見で訪れた人は『八幡平アスピーテライン』を通る際に渡った橋…………なんて思う人もいるかもしれません。

 ですが、この橋はアスピーテラインとは逆方向にあります。

 ではなんの橋なのか…………。

 というわけで、その疑問を解決していきたいと思います。

松川大橋への道

 まずは『森の大橋』を過ぎ、松川温泉『峡雲荘』を過ぎ、さらに『松川地熱発電所』も通り過ぎ、アスピーテラインに入る道まで行きます(冬季になると通行止めのバリケードがある所)です。

 すると看板とミラーの間に一本の細い道があります。

 案内板もなく、周辺は工事もしているため通常なら工事関係の車の通る道…かと思いますが、この道に入っていきます。

松川大橋への道2

 こちらも通常はバリケードがあるため通れない道……しかも細い道のため観光バスなどでは絶対に通れない道です。

 道中には待避所がありますが、落ち葉で滑りやすくなっているため行く際は気をつけてください。

 細い道ですが、こちらの紅葉の景色もなかなかのものです。

 多くの人は手前の松川温泉付近までですが、ここは知る人ぞ知る秘境…………静かな環境で紅葉を楽しむことができます。

 そうして道中を進んで行くと…………

松川大橋

 通行止めになっている巨大な橋が見えてきました。

 あの謎だった白い橋です。

 この橋の名前は『松川大橋』……………現在は登山用の歩道橋として使われている橋です。

 元々は1964年(昭和39年)にの6月24日に『奥地等産業開発道路整備臨時措置法』(通称『奥産道』)が制定された際に「交通条件がきわめて悪く、産業の開発が十分に行なわれていない山間地、奥地」などを対象に国の補助を受け地域間交流や観光資源の活用を念頭にした道路を建設する動きがあり、岩手県雫石町と松尾村(現在の八幡平市)を結ぶ、延長約16kmの県道(212号)がその対象となりました。

 雫石町と八幡平市の間には岩手山があるため、短時間での行き来が難しく、通常は岩手山の東側にある盛岡市を迂回することになるのですが、岩手山の西側に自動車道を通せば、利便性も上がり、さらには風景も楽しめる一石二鳥の山岳観光道路として期待されていたのですが、この頃の日本では自然保護運動が活発となっていました。

 この運動により現在、世界遺産となっている白神山地が守られたのは有名な話です。

 しかも拍車がかかるようにこの地は『十和田八幡平国立公園』内に入っており、その指摘に工事が中断

 その後、自然破壊を抑えるためにトンネルの建設や再ルートの模索など様々な案が策定され、1984年に工事は再開されました。

 しかし、1995年……工事関連業者が原生林の自然破壊を行っており、翌年の融雪時にそれが発覚。岩手県は調査や討議を重ねた結果、当時の岩手県知事が定例記者会見で工事再開を断念する旨を明かしました。

 この時すでに工事開始から33年の歳月…事業費は約46億円がかかり、工事全体の80%が終了とほぼ完成間近の段階でした。

 膨大な歳月と費用がかかり無駄になる……それだけは避けたい岩手県は2000年にすでに完成している区間の有効利用案を検討。

 道路を岩手山の『登山道』として整備することで、未完成の3kmを繋ぎ完成させました。

 けれども車は通ることができないため、現在は歩行者だけが通れることになっています。

 一応、緊急車両は通れるようですが、赤川が増水している時は渡ることができないようです。

駐車場

 路上駐車は厳禁なため、橋の手前には駐車場が設けられています。

 停められる台数は3台ほどです。

看板

 そばには国立公園の地図と注意事項が記載された看板があります。

 フォトスポットにも認定されているので、少数ながらも何人か訪れます。

景色

 立派な山が聳え立ち、周りの木々も良い雰囲気を出していますね。

 ほどよい秘境感が出ています。

松川大橋

 それでは橋を渡ってみましょう!

 幅はかなりある橋ですが、欄干はかなり低く腰ほどまで……正直、結構怖いです。

松川大橋からの眺め

 ただし、景色は圧巻の一言に尽きます。

 広大な山の裾野に地熱発電所の蒸気が上がり、雲が出来ているみたいに見えます。

松川大橋からの景色2

 一面深い森ですが、赤、黄、橙のコントラストが美しいです。

松川大橋からの景色3

 こちらは雄大な山も映った景色……天気が良ければさらに綺麗だったでしょう。

 けれども、身を乗り出すのが無茶苦茶怖いです。

 高いところなら夜景も綺麗でしょうが、これだけ山深いと明かりは星明りしかなさそうです。

 それどころか、間違えて転落の危険もありそうです。

崖

 反対側はびったりくっつくかのように岩肌が張り付いています。

 土砂崩れの影響でしょうか?

 どちらにせよ、雨天時は近づかない方が賢明ですね。

橋の最後

 橋のどん詰まりまでやってきました。

 見ると車が通れそうですが……この先がどうなっているか分かりません。

 自然保護を考えれば仕方のないことでしょうが……地元の方の落胆は計り知れなかったと思います。

 やはり隠し事はロクな結果を生まないということですね。

逆方向

 最後に渡ってきた道を戻ります。

 ところどころ錆びついているうえ、橋の継ぎ目からは下が見えますが、これだけ大きく丈夫ならこれからも残り続けるでしょう。

 皆さんも機会があれば一度行って見てはいかがでしょうか?

おわりに

 岩手屈指の秋の名所なだけあって渓流と紅葉を存分に楽しむことができました。

 秋は温泉に味覚、読書にスポーツと涼しくなって色々と楽しむことができ、行動もしやすくなる季節です。

 温泉に浸かりながら……写真を撮りながら……何かを食べながら、人それぞれ様々な楽しみ方があります。

 皆さんも自分だけの楽しみ方で短い岩手の秋を堪能してください!

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