民話の宝庫……岩手。
その中心となるのは柳田国男が発表した『遠野物語』で有名な遠野でしょう。
座敷わらし、河童、オシラ様……数々の妖怪や不思議な伝承は現代でも人々を惹きつけてやみません。
しかし、そんな不思議な話し……物の怪たちがいるのはなにも遠野だけではありません。
今回はその中から遠野とは反対の位置にある県北、九戸村に伝わる民話をご紹介します。
九戸村に伝わる怪鳥
オドデ様
九戸村が誇る『折爪岳』……夏はホタルの群生地として、その夜闇を照らす淡い光を求めて県内外から多くのカメラマンが訪れるこの山にはとあるモノが棲んでいるといわれています。
その名前は『オドデ様』
姿は二升樽くらいの胴体に、フクロウのような目玉と上半身、そして下半身は人間の足のような姿をしているとされ、人語を話し、読心や占いをするという怪鳥です。
名前の由来としては話すたびに「ドデン、ドデン(またはドデ)」と言うことから名づけられたとのこと。
その見た目や能力から妖怪や神様として扱われ、九戸村では様づけで崇敬されています。
ちなみに二升樽は約3.6Lとされ、具体的な大きさでは高さ21㎝、直径23㎝ほどです。
樽と聞くと大きなイメージがありそうですが、意外と小さいですね。
そんなオドデ様の像は道の駅『おりつめ』のオドデ館前や折爪五滝『オドデ様の滝』にあり、見ることができます。
オドデ様のはなし
そんなオドデ様のあらすじは……
むかし、岩手県は九戸(くのへ)の江刺家岳(えさしがたけ)に1人の若者が住んでいた。この若者、ふもとに住む金持ちの乙名様(おとなさま)の牛を世話して暮らしていた。
そんなある日のこと、若者がいつものように山で牛に草を食ませ、ふもとの乙名様のところに牛を返す帰り道のことだった。若者は、藪の中でピカピカ光る2つの目のようなものを見つけた。やがて、それは若者の前に正体を現した。それは毛むくじゃらの顔に、ふくろうのような大きな目を持ったおかしな生き物だった。
若者が、「はて、これは鳥だべか?それとも人間だべか?」と思っていると、その生き物は、「おめぇ、オラの事を鳥だべか人間だべかと思っているな?ドッテン、ドッテン。」と若者の心を見透かすように言った。若者は肝を潰してしまい、牛を連れてその場から逃げようとした。しかしその生き物は、自分を乙名様の所に連れて行けと言い、ピョンピョン飛び跳ねながら若者の後をついて来る。
こうして、謎の生き物は若者と一緒に乙名様の屋敷までやって来た。若者が乙名様に見せると、その不思議な生き物はオドテ様と名乗った。そして乙名様の心を読み、こう言った。「これこれ乙名様、おめぇさまは今、オラを見世物に売ったらえらい金儲け出来るべなぁと思ったろ?ドッテン。」これには乙名様もびっくり仰天してしまい、オドテ様を神棚に祀る事にした。
このおかしな神様の噂は、すぐに村中に広まり、村人がこぞって乙名様の屋敷にやって来た。そこで村人は、試しにオドテ様に天気について聞いてみた。するとオドテ様は、明日は晴れ、明後日は雨と言う。そしてこの言葉はピタリと当たった。
乙名様はこれで金儲けが出来ると思い、いたる所に立て札を立ててこの事を知らせた。そしてオドテ様の前に大きな賽銭箱を置き、オドテ様に何か占ってもらいたい人は、さい銭を入れるように言ったのだ。
さて、オドテ様の占いは何でもかんでもよく当たるので、人々は次々にやって来て賽銭箱は小銭でいっぱいになった。ところがある夜、この乙名様の欲深さに嫌気がさしたオドテ様は、賽銭箱の中の小銭の山を抱えて乙名様の屋敷から飛び去ってしまった。オドテ様は、小銭を村中にばら撒きながら、江刺家岳の若者のところに飛んで来た。
オドテ様は言う。「オラ、働くやつは好きだ。オラが今から石になるから、その石に向かって占えば何でも当ててやる。だから、これからは銭儲けして一生楽に暮らせ。」そう言うと、オドテ様は若者の前で石になってしまった。
ところが無欲な若者は、オドテ様の石を全く使わず、その後も牛飼いのまま一生を過ごしたと言うことだ。
引用元:まんが日本昔ばなし~データベース~より
追記
紹介したオドデ様の伝承はかの有名な日本昔ばなしから引用したためか、いくぶんマイルドな内容となっています。
伝わる話しによっては自ら名乗るようなことはしなかったり、乙名様に縄で縛られて連れていかれたり、突然笑ってどこかに行ったりと様々です。
とはいえ、姿は違えどこの感じ……似たような妖怪がいると思いませんか?
その妖怪とは……そう『覚(さとり)』です。
覚も心を読み、伝承としては山中で出会った人間に「お前は今怖いと思っただろう」と述べ、相手の内心を言い当て、ひるんだ隙に人間を食べてしまう妖怪です。
けれども、予想外な出来事には弱く、例としては投げられた木片に当たったり、焚火の火花に驚いたりすると、その場から逃げ去るとも伝えられています。
山で会う点と心を読む部分は非常にリンクしています。
とはいえ、まだ人に危害を加えようとしない分、覚よりは全然優しいです。
むしろ、天気を当てたり、無くしたものを探し出したり良いことばかりしています。
そんなオドデ様は石にならない伝承では折爪岳に棲んでいる、と伝えられています。
夏のホタル鑑賞の際、ひょっとしたら会えるかもしれませんよ?
感想
座敷わらし同様……人間の邪悪な部分には敏感で怠け者や悪人には容赦なく制裁を与え、善良な人や欲のない人を好み、御利益をもたらす(欲がないので授かってもほとんど利用しないで終わりますが…)
オドデ様もそんな神の代行者のような存在かもしれません。
もし、天気を直観で知りたい時や無くしたものを探したい時は、オドデ様に祈ればその御利益を受けられるかもしれません(もしかしたら金運も……)
ただし、オドデ様は働き者が好きなようなので、働かず怠けないようご注意を……。