自然

僅かな期間でしか見られない山奥の氷瀑【花巻市‖たろし滝】

 北国の冬……特に山間部の楽しみ、といえばほとんどの方が『スキー』と答えるでしょう。

 北国=スキー……それを表すかのように私が小学校の頃、体育の授業ではスキー教室が取り入れられていました。

 冬季の必修科目となりつつあった冬のスポーツでしたが、私はスキーが苦手でよく転がっては雪だるまになっていました……。

 そう雪国生まれの雪国育ちだからといってスキーが得意じゃなかったんです。

 そのせいか大人になってもスキーやスノーボードには興味を示さず、過ごしてきました。

 ですが、スキーだけが冬の楽しみではありません!

 温泉や雪まつりといった楽しみも冬はあります。

 今回はそんな冬の時期にしか見られない、特別な景色をご紹介します!

豊作を占う氷柱

概要

 ところで、皆さんは氷瀑(ひょうばく)というのをご存知でしょうか?

 氷瀑の字の氷というのは読んで字の如くですが、瀑というのは『瀑布』からきています。

 その瀑布というのは滝という意味で、つまり氷瀑というのは氷の滝ということです。

 この氷瀑は氷点下の気温が続く地域でしか見ることができず、またその年の気温によっては滝が凍らないこともあるので貴重な自然現象です。

 岩手の花巻市石鳥谷町の山奥にはそんな氷瀑が毎年確定で見ることができる場所があります。

 その場所というのが奥羽山脈から流れる葛丸渓流にある『たろし滝』です。

 この葛丸渓流は宮沢賢治の「楢の木大学士の野宿」という作品の舞台にもなった地で様々な滝や奇岩があります。

由緒

 たろし滝の『たろし』とはつららを意味し、古語である垂氷(たるひ)がなまったもので出来る氷柱の形が滝に似ていることからこの呼び名がついたとされています。

 ここで「おや?」と違和感に気がついた方は鋭いです。

 そう、たろし滝は滝が凍りついて出来たものではなく葛丸川に注ぐ沢水が凍りついて出来る巨大な氷柱のことだったんです!

 そして、この地域に住む人々はこの氷柱の太さでその年の米の作柄を占ってきたといわれています。

 現在でもその習わしは続いており、毎年2月11日には伝統行事として『たろし滝測定会』が行われています。

アクセス

たろし滝は石鳥谷町内から西へ向かった葛丸ダムの道中にあります。

 葛丸川へは国道4号線、および盛岡和賀線県道13号に案内板が設置されているので、標識通りに進めば行くことができます。

 ただし、葛丸川入り口から葛丸ダムへの道中は道路の幅が狭く、大型車同士ではすれ違いが出来るかどうかほどの広さしかありません。

 また、葛丸川沿いは川が傍にあることもあり、道路の凍結や除雪による大量の雪が路肩などにありますので、向かう際はくれぐれも運転に注意してください

駐車について

 駐車場は2箇所ありますが、確実に停めたい場合は一ノ滝手前にある公衆トイレのある駐車場がオススメです

 もう、一つの駐車場としてはたろし滝の入り口に駐車スペースはあります

 しかし、こちらの駐車場はたろし滝の期間中、行事の関係者やワゴン車などが多く停めていることが多く、駐車することが難しい場合が多いです

 もし、駐車することが出来なかった場合……そこから先の道中で迂回することが出来るのは葛丸ダムとなりますので、冬道での事故のリスクがあります。

 その点、一ノ滝手前の駐車場は広く、たろし滝までの距離がある程度あるためか車も人も少ないです。

 冬場においてこの駐車場は除雪置き場となってはいますが、それでも車を停める広さは十分確保してありました。

 よって、時間は掛かりますが安全面を考慮したい方は一ノ滝手前の駐車場をオススメします。

探勝レポート

たろし滝周辺散策

 それでは早速、探勝レポートといきましょう!

 今回は駐車したところからのスタートです。

 駐車場としては私自身がオススメしていた一ノ滝手前にある駐車場を利用しました。

冬の一ノ滝

 枯れ枝が多く、見づらいですが葛丸渓流の名勝『一ノ滝』です。

 冬季以外は私が利用した駐車場から川沿いに歩いてアクセスすることで、滝の正面周辺まで行くことができます。

 深緑の季節である夏と紅葉の季節は特にオススメです!

 ここから今回の目的地であるたろし滝への入り口は徒歩で約8分ほどかかります。

冬の葛丸渓流

 冬の渓流歩きも趣があっていいものですね~!

 冬は他の季節と違って水も空気も透き通っており、自然本来の美しさをより一層際立てせてくれます。

冬の渓流の大岩周辺

 冬の渓流の場合、水量も少なくなっており川の内部をよく知ることができます。

 特にこの大岩の周辺は夏で水量が多くなる時期にはイワナなどの好ポイントになりそうです。

 釣りが出来なくても、周囲の状況から情報収集……釣り人の性です(^_^;)

たろし滝入り口

 たろし滝への入り口は冬季限定で仮説橋梁が設置されています。

 ちなみにこの仮説橋梁が設置されている場所がもう一つの駐車場となります。

 道路まで迫り出している大岩が目印です。

 こちらの仮説橋梁は例年ですと1月下旬~2月下旬頃まで賭けられ、だいたい3月頃には撤去されますが、近年は温暖化による暖冬の影響もあってか雪解け水による川の増水や氷瀑の崩壊による危険のため、2月中に撤去される場合があります

 私の感覚ですと、年々その撤去される時期は早まっているように感じられます。

 そのため、個人的には毎年行われる2月11日の測定会から1週間程が見頃であり、確実に見られる期間でもあります。

仮説橋梁 構造

 仮説橋梁はこの通り丈夫ですし、渡る川も流れが落ち着いていてとても浅いです。

 また、橋の幅は意外と広いため、大人2名がすれ違ってもぶつかることなくすれ違うことができます。

たろし氷瀑へ……

仮説橋梁後の道中

 仮説橋梁を渡り、木々の間に掛けられたロープに沿って先に進みます。

 画像では分かりづらいのですが、道中は雪だらけで踏みしめられて固い部分もあれば膝まで一気に埋まってしまうほど柔らかい部分もあります。

 さらに、掛けられているロープも丈夫で固いため素手や柔らかい手袋で掴んでしまうと手を痛める恐れがあります。

 向かう際は皮やスキーなどで使うような丈夫な手袋、長靴やブーツなどの準備が必須です。

 このような雪道の場合、固い雪道は歩きやすい分…滑りやすいというリスクがあり、柔らかい雪道は滑らない分…雪に埋まってしまうリスクがあります。

 滑って転べば痛いですし、埋まって靴やズボンを濡らしてしまえば気分も下がり、楽しめなくなってしまうでしょう。

 一番良いのはスノーウェアや滑りや雪埋もれ防止のスノーシューズを装備していくのがベストですが、中には満足な装備でない人もいるでしょう。

 その場合は上りの際は固い雪道、下る際は柔らかい雪道を使用しましょう。

 その方法でリスクを無くすことは出来ませんが、ある程度のリスクを軽減させることができます。

 上る場合は必ず、自分の前方にある木や障害物に掴まりながら移動することで滑ってしまっても最小のダメージまたは地面にぶつかる前に体を止めることができます。

 これが下りの場合、臀部(腰~お尻周辺)を打てばまだマシですが、下手をするとそのまま滑り落ちてしまう恐れがあります。

 最悪の場合、そのまま勢いがどんどん強くなって滑落し、大怪我になってしまうことだってあります。

 そのことを踏まえると下りは埋もれてしまいますが、滑るリスクがほとんどない柔らかい雪道を使用した方がまだ安全といえます。

 ですが、かといって無闇やたらと柔らかい雪道のところばかり進むと膨大な雪の下にある空洞に気が付かず、今度は転落という危険があります

 それを防ぐために歩く際は固い雪道と柔らかい雪道の境目、または木やポールと近くを歩きましょう。

 木やポールの近くは見えない空洞がある確率が低いですし、万が一あったとしても木やポールに掴まっている時点で転落のリスクは回避できます。

 ただし、ここで注意したいのが岩場やルートから外れた木を使用しないことです。

 岩場は形が不規則な上、岩肌で滑りやすく、ぶつかった際のダメージも大きいです。

 ルートから外れた木もその木の周囲に何があるか分かりませんので、あくまでこの歩き方は動線が定まっている範囲内で行ってください。

 先ほどの画像では、ロープとそこに括り付けられている木が掴まるのに適していますが、左隣奥にある木々は適していないということになります。

 一番良いのは雪道の足跡に沿って歩くこと、滑りそうな場所は足跡によって出来た雪の段差を利用するのがベストです。

 ですが、小さな動物の足跡は体重差があまりにもありすぎるので利用するのはやめましょう。

 さて、そんな感じで天然の雪道を歩いていくと……

たろし滝 全貌

 目の前にようやく目的のたろし滝が出現しました!

 これが沢水で出来たとはにわかに信じられませんほどの大迫力です!

たろし滝

 川が流れ落ちてそのまま凍りついたかのような姿です。

たろし滝 根本

 氷瀑の根本も飛沫ごと凍りついたかのような造形です。

 この部分だけ見てしまうと地面にくっつけたかのような見た目ですね。

 ちなみにこの年(令和5年)の太さは5.4メートルと作柄占いとしては『平年並み』とのことです。

たろし滝 神棚

 この滝の裏の岩肌には神棚が祀られていました。

 こちらは『たろし神社』とのことで山祇神社の分祀として祀っているとのこと。

 お賽銭を入れ、手を合わせて作物の恵みと山歩きの安全に感謝と祈りを捧げました。

ミニたろし滝

 岩場からもミニたろし滝が……こう見ると流れている勢いが激しいように見えてしまいます。

氷柱

 たろし滝の氷柱ともなると普段見る氷柱とはなんだか違うような雰囲気を感じます。

氷柱 至近距離

 こんなのが頭に落ちてきたら簡単に召されてしまいますね……。

 ちなみにたろし滝周辺はこのような氷柱が落ちて、凍りついたためか欠片が至るところに転がっており、かなり滑る状況です。

 一応、滑る対策としておがくずがばら撒かれていますが、過信はせず無理のない範囲で楽しんでください。

たろし滝と青空

 このたろし滝の高さは13メートルとなっています。

 補足として記録で残っている大豊作の年となった昭和53年では太さは8メートルほどになったとか……いまでも十分太いのにこれ以上、太くなる時があるのは楽しみですね!

おわりに

 たろし滝の間近では氷瀑の中を流れる水滴の音も聞くことが出来ます。

 その音色はとても神秘的で現地でしか聞けない音色となっています。

 この他、たろし滝測定会では豊作祈願や御神楽奉納、川柳、たろし滝讃歌なども行われる。

 冬が苦手な方もこの機会に冬の神秘を楽しんでみてはいかがでしょうか?

 まだ見ぬ冬の岩手を一緒に楽しんでいきましょう!

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