少子高齢化が加速する現代……男女の結婚率は低下の一途にあり、それに伴って子供の出生率も著しく低下してきました。
さらには学校における性教育の不足や性への関心も低下……国の繁栄に欠かせない『人材』の確保が難しくなってきています。
ですが、現実は非情なのか……世の中には結婚しても子宝に恵まれない人もいるのが常。
子供は授かりもの……といわれる由縁で、こればかりは天に祈願するしかないといえるでしょう。
実はそんなぴったりな神社が岩手の遠野にあります。それも現実に起きた伝説付きで……。
今回は子宝におけるとても強いパワーを持つ神社をご紹介します。
言い伝えが現実になった金精様
概要
遠野市の郊外に位置する土淵町の山の中……沢水が流れた山林の中にひっそりと佇むように鎮座している神社があります。
その名も『金精神社』別名『山崎のコンセイサマ』と呼ばれて、親しまれている石神様です。
境内には男女の根の形をした『陰陽石』をはじめ、巨大な金精様が一柱……社殿の中にも高さ1メートル弱ある金精様が鎮座されています。
遠野の里では金精様は昔から祀られており、柳田国男が記した『遠野物語』でもその記述がみられます。
コンセサマを祭れる家も少なからず。この神の神体はオコマサマとよく似たり。オコマサマの社は里に多くあり。石または木にて男の物を作りて捧ぐるなり。今はおひおひとその事少なくなれり。
引用元:『遠野物語』第16話
この駒形神社は、俗に御駒様といって石神である。男の形の物を奉納する。その社の由来は昔ちょうど五月の田植え時に、村の若い女たちが田植えをしているところへ、一人の旅人が不思議な目鼻もないのっぺりとした子供に、赤い頭巾をかぶせたのを背中におぶって通りかかった。そうして今の御駒様のある処に来て休んだ。あるいはその地で死んだともいう。それがもとでここに社が建つこといなったそうな。
引用元:『遠野物語拾遺』第15話
土淵村から小国(おぐに)へ越える立丸峠の頂上にも、昔は石神があったという。今は陽物の形を大木に彫刻してある。この峠については金精神の由来を説く昔話があるが、それとよく似た言い伝えをもつ石神は、まだ他にも何ヵ所かあるようである。土淵村字栃内の和野という処の石神は、一本の石棒で畠の中に立ち、女の腰の痛みを治すといっていた。畠の持主がこれを邪魔にして、その石棒を抜いて他へ棄てようと思って下の土を掘って見たら、おびただしい人骨が出た。それで祟りを畏れて今でもそのままにしてある。故伊能先生の話に、石棒の立っている下を掘って、多くの人骨が出た例は小友村の蝦夷塚にもあったという。綾織村でもそういう話が二か所まであった。
引用元:『遠野物語拾遺』第16話
土淵町の金精様に関する記述は三番目となり、この話によると昔はあったが今はなく、大木を掘って模したとあります。
つまりこの時までは言い伝えで存在していたらしい、というだけでした。
ところが、昭和47年(1972)の砂防工事現場の災害復旧工事の際に土中から偶然にもその金精様が発見されたのです!
これを機に地元では社を建ててお祀りすることとなり現在に至るというわけです。まさに伝説が現実になった瞬間といえるでしょう。
今では毎年5月5日にお祓いをした後、女性数人が男性の神様をキレイに拭くという『山崎金勢様まつり』も開催されています。
ちなみに『山崎のコンセイサマ』は『遠野遺産第46号』に認定されています。
御祭神・御利益
そんな金精神社に祀られている神様は以下の通りとなります。
御祭神 | 御利益 |
金精神〔こんせいがみ〕 | 生産の神 対象:子宝、出産、縁結び、婦人病、腰痛 |
祀られている金精様は男性の象徴を表し、精力や子宝に縁が深くそれにまつわる御利益を得ることができるでしょう。
山崎のコンセイサマの場合は婦人病や腰痛にも御利益があるらしく、総じて女性特化の神社といえます。
こちらでは子宝を願う人は、小さい腰枕を赤い布で作り、祠から1つを借りて願い成就の際は、2つにして奉納する習慣が今でも伝えられているとされています。卯子酉神社といい、遠野の神社は赤い布にまつわる祈願法が多いですね。
『生産』を司るところから駒形信仰とも縁深く、馬のまつわる御利益もあったそうです。
ちなみに背後の山頂の『賽の河原』と一対にして、 中世の人々は『死と再生』の地上曼荼羅をここに作っていたともされており『遠野物語拾遺』の第16話にもある「石棒を抜いたらおびただしい数の人骨が出てきた」という記述からも死生と密接に関わっていたことが伺えます。
もしかすると、生産と再生から『死者蘇生』か『輪廻転生』に関する信仰があったのかもしれません。
アクセス
『山崎のコンセイサマ』は遠野市土淵町の山中にあります。
山中といっても神社までは車で行くことができるうえに手前には『山崎金精様休憩所』というトイレ休憩できる場所もあります。
『国道340号線』を走り、『栃内観音』手前の小烏瀬川に差し掛かる道を左折し、山へ向かって行くと到着することができますが、目印が少なくなかなか分かりにくいです。
目印として行く際は近くにある『光岸寺』を目指して行くといいでしょう。
駐車場は社殿前に停めることができますが、人気がなく熊の出没が多いので向かう際はラジオや音の出るものを身につけたり、熊よけスプレーを持参して行きましょう。
探勝レポート
それではさっそく探勝といきましょう!
今回、車は神社傍に駐車しましたが、トイレ情報も伝えたいため休憩所からのスタートです。
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こちらが『山崎金精様休憩所』
砂利の駐車場で建物の中にはトイレや神輿のようなものがあります。
神社にはトイレが無いので用を足す際はここをご利用ください。
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少し坂を上がると砂利と砂、泥の道中に差し掛かります。
タイヤがはまる心配は無さそうですが、雨上がりの日に行く際は念のためお気をつけください。
なぜか、そばには雲梯もありました。
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神社周辺には自然石のような人工石のような不思議な石が点在しています。
これらは『陰陽石(いんようせき)』と呼ばれるもので男石(陽石)と女石(陰石)がセットになった自然の奇石。昔から性信仰の対象とされており、金精様にやや近い系統をもっています。
遠野周辺には『続石』や『角閃石』といった珍しい不思議な石が多くあり、石マニアにとっても聖地とされています。
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それでは境内に車を停め、改めて出発。
神社周辺はご覧の通り山林に囲まれているので熊の奇襲に注意しながらいきます。
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ここからが正式な神社の入り口です。
水の流れの跡なのか道が深く抉られています。
雨の日に訪れるのは控えたほうが良いのかもしれません。
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遠野の観光地にある必ずといっていいほどある由緒書き。
背後の山の山頂は賽の河原と呼ばれていますが、青森の恐山にも賽の河原はありますよね。
もしかすると、全国各地にあの世を模した場所があるのかもしれません。
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境内のあちらこちらにも夫婦の陰陽石が鎮座しています。
こちらは比較的分かりやすいですね。
細長くなっているのが男石、丸くなっているのが女石……やはりここは子宝に御利益に特化しているといえますね。
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手水舎で清めてから参拝します。
木から流れ出る清水はかなりお洒落ですね。
石のくぼみに溜まる水もまた風情があります。
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手水舎の上には木の看板による金精様の由緒書きがあります。
内容に関しては御利益や概要の項目で説明した通りです。
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それでは木の鳥居をくぐり、お参りします。
この社殿の中に発見された伝説の金精様があります。
中には自由に入ることができますが、社殿の中にある御神体の撮影はしていないので、気になる方は現地へ赴き、ぜひご覧になってください。
そびえ立つ御神体は圧巻ですよ!
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社殿の裏には何やら怪しげなトンネルが……。
ここは『山崎地震観測点』……東北大学が所有しているようです。
しかし神社の裏に作るとは……色々すごいですね。よく許可が下りたと思います。
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社殿の中の御神体は撮影できませんが、外に出ているものは撮影できます。
こちらにあるのも分かりにくいですが、金精様。
わざわざ堀ったのか、それとも自然にできたものなのか……もし、後者であるならば奇跡としか言いようがないでしょう。
ここまで『性』に特化した神社もそうそうないでしょうね。
おわりに
言い伝えが現実になる……実にロマンがあり、夢や希望を与えるエピソードですよね。
神社には金精様を祀る所はいくつかあっても、ここまで大々的に祀っている場所は少ないと思います。
現代日本では『性』に関して毛嫌いしたり忌避する傾向がありますが、古代の日本では生命の誕生に関わり神聖なものとされてきました。
ただ場所によっては俗世間と密接に関わる行為が故にタブーとされている所もありますが、それもケースバイケース……時と場所をわきまえればそこまで警戒するほどでもありません。
精力とは言い方を変えれば、日々の生活における活力でもあります。
女性男性に限らず、山崎のコンセイサマをお参りして活力を得てみてはいかがでしょうか?