岩手県は、古くから馬産地として有名で江戸時代以前は主として軍馬や騎馬として使われていました。
馬と人々が一つ屋根の下で暮らす『南部曲がり屋』が作られたことからもいかに馬を大切にし愛情を注いでいたかが分かるでしょう。
その名残りを色濃く受け継いでいるのが6月に行われる『チャグチャグ馬コ』です。
岩手の初夏の風物詩で滝沢市から盛岡市を練り歩くその姿は岩手県人の故郷の景色として有名ですよね。
今回はその『チャグチャグ馬コ』における出発地点の神社をご紹介します。
馬と人が参拝する神社
概要
滝沢市にある『鬼越蒼前(おにこしそうぜん)神社』は『チャグチャグ馬コ』における出発地点。
この神社で馬と人が参拝した後、滝沢から盛岡にある『盛岡八幡宮』まで参拝しに行きます。
詳しくは『チャグチャグ馬コ』の記事にて紹介しています。
お祭り当日は多くの見物客で賑わうこの神社ですが、何もない平時は閑静な住宅街の中にあるとても静かな神社です。
有名な神社で社務所も立派ですが、意外なことに祭日やお正月以外は誰も常駐していません。
御祭神・御利益
祀られている神様については以下の表に簡単にまとめてみました。
御祭神 | 御利益 |
保食神〔うけもちのかみ〕 | 食物の神 対象:穀物、作物類の豊穣 |
月読命〔つくよみのみこと〕 | 月の神 対象:月の動き、暦 |
『鬼越蒼前神社』の主祭神は保食神です。
保食神は通常、穀物や農作物といった食物神でありますが『鬼越蒼前神社』ではその農耕に関わる牛馬の守護神としても扱われています。
また境内には月読神社もありこちらでは月読命を祀っています。
月読命も月の動き、暦という点で農業や漁業を行う方々に崇拝されています。
また『日本書紀』では……
天照大神に派遣された月読命を保食神がもてなすため、さまざまな食べ物を自分の口から出したが、これを見た月読命は「穢れたものを私に食べさせる気なのか!」と怒りのあまり保食神を斬り殺し、その遺体から五穀や牛馬、蚕が生まれた。(このことに天照大神が怒り、月読命と仲違いしたため、太陽と月は昼と夜に分かれたのだとか……)
と伝わっています。
そのため、保食神と月読命はよくセットで祀られています。
このことから『鬼越蒼前神社』では牛馬と農耕に御利益のある神社となっています。
アクセス
『鬼越蒼前神社』は滝沢市街地から少し外れたところにあります。
『滝沢市役所』や『ビッグルーフ滝沢』のある『県道16号線』を北上し『滝沢市立鵜飼小学校』のある交差点を左に曲がります。
曲がってからは真っ直ぐに進み、Y字路に出たら左の道に進んで行くと神社が見えてきます。
駐車場は神社前に砂利の敷地『馬っこ広場』があるのでそこに停めることができます。
探勝レポート
それではさっそく探勝といきましょう!
今回は駐車場である『馬っこ広場』からのスタートです。
この馬の看板が目印……敷地は『チャグチャグ馬コ』のためなのか、かなり広く作られています。
駐車場の目の前は道路を隔ててすぐに神社があります。
石造りの鳥居がとても立派ですねぇ~!
すぐ近くには『チャグチャグ馬コ』と神社の関係が記された看板が設置されています。
英語訳も下に記されていますね。
参道を通り、境内へ……両端に鎮座する狛犬のそばには『駒形神社』と記された石碑があります。
『駒形神社』も馬にまつわる神社……石碑も馬関連のものですね。
狛犬の方も狛馬に変えたら、もう馬尽くしとなってしまいますね。
駒形神社の近くには馬の置物が入っている社があります。
神馬を祀っているのでしょうが……岩手県内の由緒ある大きな神社では必ずといっていいほどあります。
こういうのを見るとやはり馬産地であることを実感させられますね。
それでは参拝していきましょう。
神社はかなり大きく、とても綺麗な造りとなっています。
『チャグチャグ馬コ』になるとここに人と馬が一緒にお参りし、長蛇の列ができます。
鈴の音に反応して前足を振り上げる馬もいるんですよ。
そのためか分かりませんが、祭りになると落馬する人もいるみたいです。
幸い、今のところは大きな事故に至っていません。
大抵はここに神額が掛けられているものですが、ここにはないようです。
もしかすると、馬が柱にぶかったりして落下したりするのを防ぐためかもしれません。
すぐ隣にはこちらも新しく立派な社務所があります。
スロープも付いており、歩きやすい造りですね。
受付の窓には御朱印が貼られていました。
とても立派で欲しくなりますが、平時では人はいません。
聞くところによると御朱印は『チャグチャグ馬コ』の日とお正月に受け付けているのだとか……貴重な御朱印です。
お参りも済ませたので、ゆっくり境内を散策しましょう。
しかし、随分と広い……『チャグチャグ馬コ』の日に大勢の人と馬でごった返すので広く作ったのでしょうけど、それでも広い。
地域の神社でこれほど広い境内を有している神社はそうそうないでしょう。
境内には土俵もあります。
神社に土俵がある所は大抵、子供会や神事で使用されていますがここは綺麗に整備されていますね。
こちらは忠魂碑……今の生活の礎を築いたご先祖様方の名前が刻まれております。
多くの方々の尽力によって今を生きる私達がいる……感謝です。
境内は大きな木々が生えている林となっています。
夏に虫捕りをするにはうってつけの場所ですね。
ただ、今の子供達が虫を捕っている姿をあまり見かけません……時代なんでしょうか?
少し寂しいですね。
境内端には神楽殿もあります。
こちらの建物も立派ですが、舞台は閉められています。
『チャグチャグ馬コ』の日には神楽を見られなかったのですが、参拝前に開かれたりしていたのでしょうか?
神楽殿の後ろにはもう一つ社があります。
こちらは『月読神社』
名前から察するに月読命を祀っているのでしょう。
周りの土台を見るに新設された神社かもしれませんが、元々この『鬼越蒼前神社』の主祭神である保食神と月読命はセットで祀られることがあるので、新設以前に小さな社などがあったのかもしれません。
神社の裏もかなり広い敷地内でしたが、畑も隣接していたのでもしかしたら近隣の方の私有地と繋がっているのかもしれません。
さすがに不法侵入となってしまうのでこの辺りにしましょう。
おわりに
人馬一体を象徴とした神社ということですが『駒形神社』の碑が多くあるという特徴以外は地域にある大きな神社という感じでした。
祭りのためというのもあるかもしれませんが、神社や境内がかなり広くゆっくりと落ち着いて過ごすには良い雰囲気の神社ですね。
また、岩手山も目の前にあるので天気の良い日は特に気持ちが良いでしょう。
祭りの時だけ注目されがちの神社……たまには何もない普通の日に訪れてみるのはいかがでしょうか。