『小岩井の一本桜』や『石割桜』……岩手には有名な桜の名所はいくつかありますが、そんな中でも毎年圧倒的な来訪客を誇るのは何と言っても北上市にある『展勝地』でしょう。
岩手を縦断する一級河川『北上川』の畔にありながら、広大な敷地と圧倒的な桜の数を誇り……東北有数の桜の名所として知られ、桜まつりといえばここ! を代表する場所です。
しかし、桜が咲く頃には会場が人で溢れかえり……道路は車で渋滞と、なかなか行くだけでも疲れてしまい足が動かない方々もいるのではないでしょうか?
そこで今回、私シードルが僭越ながらも展勝地の魅力について……現地へ行った時の写真も交えてお伝えしようと思います。
とはいえ、先に申しますが私も全部の箇所を回ったわけではありませんので残りの気になる所は実際に行ってきた時のお楽しみということで敢えて伏せさせていただきます。
やはり自然の風景は現地へ行ってこそ、感動できるものですから……それではさっそく始めましょう!
みちのく三大桜名所
歴史
まずは展勝地の歴史について触れていきましょう!
展勝地は北上市にある北上川と和賀川が合流する河川の畔にあります。
大正9(1920)年に後の黒沢尻町長である澤藤幸治氏が設立した和賀展勝会が計画したことに始まり、その翌年に桜の植樹を行い、開園しました。
やはり大規模な河川の傍ということもあってか洪水の被害に見舞われたこともあったようですが90年ほどの間……地域住民の協力のもと、支えられる形で現在のような桜の名所となっているようです。
ちなみに展勝地の由来は澤藤氏の親友である風見章氏(後の司法相)が事業団体の名称を展勝会と命名したことと、近くにある陣ケ丘からの眺めが素晴らしいことから『展望のきいた名勝・景勝の地』という意味で名づけられたそうです。
東北が誇る桜の名所へ…
そんな多くの人達の尽力により成った展勝地は毎年4月4日~4月29日までの期間に『きたかみ展勝地さくらまつり』として県内外から大勢の花見客で溢れかえります。
祭りの際は様々な屋台や北上が誇る民俗芸能である鬼剣舞などの催しが開かれ、馬車を使った桜並木の散策や渡し船、夜桜のライトアップなどがあります。
少し早いですがこいのぼりも橋近くに架けられており、とても賑やかです。
これも展勝地が『みちのく三大桜名所』に数えられるからでしょうか?
ちなみに残りの二か所は……
・青森県弘前市の『弘前公園』
・秋田県仙北市の『角館』
です。
どちらもとても美しいですが、青森は弘前城……秋田は武家屋敷……と、時代的には大正に開園した展勝地の方が近代となっています。
数年前までは桜の開花が遅い北東北ということもあってか、開花時期が祭り開催時期に間に合わないといったこともありましたが、近年は暖冬の影響もあってか、ちょうど時期が重なる場合が多いです。
ちなみに時期が嚙み合えば、同じく北上市にある『夏油高原』でスキーと温泉を楽しんだ後、山を下りて桜まつりを楽しむという……冬と春をいっぺんに楽しめる贅沢な1日を過ごすことが出来ますよ!
アクセス
交通ルートに関してはまつり開催期間中はあちこちに看板があり、なおかつ車の渋滞や人の流れもあるので迷わずに到着することが出来ると思います。
まつり開催期間外も案内板が道路にこまめに設置してあるので、順路に従って行けば到着することが出来ます。
交通手段は車か電車+徒歩orタクシーのいずれかになります。
車では盛岡、奥州市ともに北上川沿いの県道14号線を通るルート、電車ではJR東北本線北上駅から徒歩で約30~40分、タクシーを使用で約10分で到着します。
しかし、タクシーの約10分はまつり開催期間外の場合ですので開催期間中では道路の渋滞もあって約1時間ほど掛かりますので、徒歩で行った方が早く到着することができます。
駐車場に関しては専用駐車場があり、平時は無料で利用できますがまつり開催期間中は有料となり一般車両1台につき約500円ほど……大型バスに関しては1台につき約3000円ほど掛かります。
ちなみにまつり期間中の駐車場の予約は受け付けていないようなのでご注意ください。
ですが、まつり開催期間でも展勝地会場から離れた場所では無料駐車場がいくつか開放されており、その際は無料のシャトルバスも利用できますので、少し時間と手間が掛かっても経費を浮かせたいという方はそちらをご利用ください。
私もまつり期間中は無料駐車場を利用しています。
これまでの経験では無料駐車場開放区間は比較的渋滞の少ない奥州市方面に多く開設されており『みちのく民俗村』~『国見橋付近(セブンイレブン北上国見橋店様辺りまで)』にいくつかありました。
逆に盛岡市方面は渋滞が長くなる傾向にあるため、あまり車を止めたくない方は国道4号線を通って展勝地を過ぎ、奥州市側から北上川の対岸へ渡った方が停車の回数を少なくすることができます。
探勝レポート
それではさっそく探勝といきましょう!
今回は展勝地から離れた無料駐車場に車を停めて、歩いて現地へ向かったので展勝地に着いてからのスタートとなります。
川沿いの遊歩道を歩き、展勝地へ……。
すでに満開の桜がお出迎えしてくれます。
桜の傍には『水引観音』と書かれた祠が……誰かを供養しているものなのかと、この時は思っていましたが、後ほど調べてみるとこれは神社で……お堂の中には『十一面観音木像』が祀られており、江刺土地改良区とも明記されているそうです。
隧道工事における『安全祈願、五穀豊穣、犠牲者供養祈願』などのお宮であった、とのこと。
ちなみにその傍には通水記念碑の石碑群があります。
そんな石碑群に交じって遭難供養碑もありました。
北上川の本流と和賀川の合流地点であるこの場所は北上川の中でも特に川幅が広いだけでなく、流れも急で淵がいくつもあり、水深も深いです。
ですが、昔の北上川は舟を使用した運輸における流通の要……多くの人が働いていたことでしょう。
その中には洪水や増水によって舟が川に沈んだり、激流に呑まれた方々もいたに違いありません。
また、これほど川幅が広ければ氾濫もたびたびあったことは容易に想像ができます。
観音様と石碑はそんな方々の魂を慰めるとともに川による災害から人々や農作物を守ってほしいという願いが込められ作られたもの……私達は先人の方々の尽力に敬意を表するとともに今の平和な暮らしができることに感謝しなければなりません。
現在ではこの綺麗な桜も魂の慰めになっていることを祈るばかりです。
さて、少ししんみりとしてきましたが先へ進みましょう。
先へ進むと『北上夜曲』の歌碑が……ところで、北上夜曲とはなんだ? と思った方もいると思います。
北上夜曲とはかなりざっくり述べると北上川を題材とした昔にヒットした歌謡曲のことです。
現在では新幹線においての北上駅到着時のチャイムやかぎやさんの銘菓としても使われています。
しかし、意外にもその発祥の地は……おっと! ここから先は私の口からはお伝えできません。
機会があったらご紹介しようと思います。
そんな北上夜曲歌碑の近くには……
北上川から望める霊峰を紹介する碑やこのような松があります。
この松は『おいらん松』と呼ばれるもので近くの看板にはその名の由来が記載されています。
黒沢尻町川岸の港が、藩米の積み出し港として栄えた頃、出船入船の船頭達を慰め、励ましたものに「おいらん松」がありました。
石巻から北上川を遡ってきた「 艜(ひらたぶね)」の白帆がおいらん松の下に現れると、男衆は荷下ろしの準備をはじめ、女達は酒樽の鏡を抜いてその到着を待ったといいます。
あまりの美しさに「おいらん松」と呼ばれたこの松は、用水の取入口工事のために、生えていた岩もろとも消え去り、そのつややかな姿を見ることができなくなりました。
今回、観光施設整備にあたり元の場所に近い此の地にひともとの松を植え、往時をしのぼうとするものです。
「おいらん松」の由来より引用
看板の由来を見るとどうやらこの辺りにはとても美しい『おいらん松』という松があり、この松はその名残として代わりに植えられたもののようです。
私は『おいらん』という言葉から遊女関係で何か悲哀な話しが由来なのかと思っていましたが、事実は思っていたものより清らかなものでした。
なんだか、今回は不穏な方へと考えがいってしまいます……先入観とは恐ろしいものですね。反省です……。
レストハウス周辺は屋台村があり、花見客でとても賑わっているので人混みを避けて展勝地に入る場合はレストハウス裏手にある遊歩道から行くルートがオススメです。
ちゃんと桜の木もありますので落ち着いて見ることができますよ。
人の数は少ないですが、桜の美しさは変わりありませんのでご安心ください。
こちらのルートの場合、北上川を眺めながら船着き場へと出ることができます。
こちらが展勝地の船着き場です。
桜の花びらが水面に浮かび、綺麗ですね!
船着き場には屋台船のほか、先ほどの『おいらん松』の説明にもあった艜が実際に浮いているところを見ることができます。
ちなみに春先にはこの場所に大型の鯉が休憩場所によく現れます。
運が良ければ桜の花びらを散らしながら悠々と泳ぐ野生の巨鯉を見ることができます。
SNSでレストハウスの方に聞いたところこの場所は特に釣り禁止にはなっていない、とのことなので釣り師の方は挑戦してみてはいかがでしょうか?
そして、この船着き場の橋を渡るといよいよ展勝地桜並木の敷地内へと入ることになります。
橋の入り口から春爛漫……元気な桜がお出迎えです!
近くで見るとより美しい……毎年のように色々な桜の名所に行く私ですが、不思議と桜は何度見ても飽きないんですよね。
日本人特有のDNAなのでしょうか?
風が吹き……そのたびに木からピンク色の雪が降り注ぐ光景は最高です。
均一にバランスよく植えられた桜はゆとりある空間を作り出しています。
やはり密集しているよりも程よく散らせた方がより華やかに見えます。
ちなみに展勝地の遊歩道には3種類の道があります。
一つは桜に囲まれた桜並木。
もう一つは川岸側にある道。
こちらは川に近い部分にあるため、このように片側の桜並木と湿地帯を同時に見ることができます。
春の時期では分かりづらいですが、こちら側はあじさいが多く植えられており初夏には違った顔を見せてくれます。
展勝地の境界線である珊瑚橋付近まで来るとスイセンと無数のこいのぼりを同時に楽しむことができます。
展勝地からこの珊瑚橋までの距離は約2キロほどの距離とのこと……。
また、この橋付近の広場にも数は少ないですが、キッチンカーなどの屋台が出ておりトイレもあるので一息休憩するにはぴったりです。
そして、3つ目となる遊歩道は展勝地の敷地を一望できる芝生側の道です。
ぐるりと綺麗な弧を描く桜並木と青く茂った芝生がとてもよく映えています。
展勝地の敷地の面積は約293haにもおよび、公園内には約150種の桜が1万本あるといわれています。
実際に数えてはいませんが、あっても不思議ではありませんね。
芝生側の遊歩道はとても整備されていて見通しもかなり良いです。
またベンチも所々にあり、座って休むこともできます。
体力に不安のある方や高齢者の方、足の不自由な方はもちろんのこと、車椅子の方でも移動しやすい造りになっているのは嬉しいですね。
珊瑚橋にはこのように色鮮やかな別種の桜の木も植えられており、様々な風景を楽しませてくれます。
近くにはこのような石碑が……ちなみにこの石碑はとある有名な方ゆかりの碑です。
皆さんは誰だか分かりますでしょうか?
ヒントは『平民宰相』とも呼ばれ『はら けい』の愛称でも知られた人物……歴史に詳しい方ならもうお分かりになりましたね?
そう、答えは『原敬』氏です!
出生地、生家は盛岡が有名ですが実はこの展勝地にもとてもゆかりある人物。
実は冒頭で述べた澤藤氏の展勝地造成計画にて多額の資金を援助したのが原氏だったのです。
そんな原氏は展勝地開園の年に東京駅にて襲撃に遭い、その生涯を閉じてしまいましたが……後にその恩に報いるためここに句碑を建立し、周辺を『一山園』として整備したとのことです。
名前の由来である一山とは原氏の俳号である一山(逸山)から取ったもので、その一山のさらなる由来は『白河以北一山百文(しらかわいほくひとやまひゃくもん)』より。
訳すと「白河から北の地域(東北地方)は一山、百文程度しか価値がない」という意味。
今現在の価値で一文は約32~33円なので、だいたい3200~3300円程……つまり一つの山で約3000円前後……よく戦国~江戸時代まで有名な価値の値である石高で比較すると一石=約30万円。
さらに他県で比較し『加賀百万石』と呼ばれる石川県の場合ですと、約3千億円……日本の各都道府県には平均354もの山があるといわれ、岩手の面積が北海道に次いで二番目と考慮しつつ、その約2倍……708個と仮定して計算してみると約233万6400円……。
精密なデータが分からないのでざっくりした計算になり、かなりダラダラとした内容となりましたが、つまり何が言いたいかというと……。
東北地方に価値はない!
と、遠巻きにですがディスられているということになります。
これは明治期の東北地方に対する侮蔑語で、やがて東北人の反骨精神を表す言葉になったとのことです。
まぁ、明治維新では会津戦争のこともあり東北は新政府にぞんざいに扱われた背景があったとはいえ、これは悔しいですね…。
しかし、この言葉を敢えて俳号にする辺り……原氏はやはり器が違いますね。
さて、ここらかまたメインの遊歩道を通って入り口近くまで戻りましょう。
そうして戻っていると何やら後ろから軽快な足音が……
見てみるとそこには桜のトンネルの中を駆ける馬車が……さくらまつり期間中のみ行われる観光馬車ですね。
この馬車運行は9:00~17:00までやっており、料金は片道で大人が約500円、小学生以下が300円、3歳未満が無料とのこと。
馬っこさん、朝から夕方までお疲れ様です。
そして、馬車の後に付いて歩きスタート地点の船着き場の橋へ……そこから桜並木を逸れて芝生側に向かいます。
芝生側には銅像のある広場が……ここには澤藤氏の銅像と顕彰碑があります。
この方が今の展勝地を造りあげたのですね。
本当にありがとうございます。
反骨精神を持つ先人の方々のおかげで今の展勝地は日本に誇る桜の名所となりました。
悲嘆に暮れることが多い我々、現代人も改めてその精神を学ばなければなりません。
ここで一度、広場をぐるりと見渡してみましょう。
後ろを振り返るとそこには鉄道ファンが大好きなSLが!
ここまで全体が展示されているのはなかなか珍しいですね。
近くに行って見てみましょう。
こちらの機関車は『C58形蒸気機関車』……昭和18年頃~46年頃まで実際に岩手の宮古に配置され、さらには仙台、沢内と実際に走っていた機関車です。昭和47年のおもいで号運転鉄道100年祭記念行事でラストランを終えた後、昭和49年に盛岡鉄道管理局から北上市へ貸与され、平成30年に寄贈……現在は公園の施設として公開されています。
そんな機関車の先には見慣れない機関車が……これはラッセル車といい、単車線用の雪かき車とのことです。
こちらも雪深い北国では必要不可欠なものですね。
広場の近くには小川が流れており、下りることができます。
川は浅く緩やかなので、夏の避暑にはぴったりですね!
春以外にも息抜きに訪れてみてはいかがでしょうか?
おわりに
展勝地さくらまつりは見どころやイベントがたくさんありますが、園内では様々な歴史に触れることができ、東北人の忍耐強さの理由を垣間見ることができます。
また、近くにある『みちのく民俗村』や『北上市立博物館』は通常営業時は有料となりますが、さくらまつり開催期間中は入場料、入館料ともに無料で楽しむことができ、かなりお得となっております!
昼も夜も楽しむことが出来る春の北上市の一大イベント……是非とも訪れて楽しんで行って下さい!